第1話A:消えない傷

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その日から、翔の父は遺族たちに声をかけ、『被害者の会』を設立。 声を掛け合い、犯人逮捕のために尽くした。 貼り紙、路上での通行人への声かけ、警察との定期的な情報交換……。 毎日昼夜問わず、遺族たちの懸命な活動は続いた。 そんな中、また新たに被害者が発見され、被害者の会の会員は増えていく。 テレビでも大々的に報道され、事件に関する周囲の興味も増していく。 そのことがきっかけとなり、被害者の会に対する関心は増していき、警察への情報提供数も増えていく。 「こんなに被害者が出て、やっとか……。」 被害者の会の面々の心境は、複雑だった。 興味・関心が増えていくのは、決まって被害者が増えてから。 地方の殺人事件など、東京の食い逃げ事件よりも取り上げられるチャンスが少ない現状に、遺族たちは落胆した。 なかなか進まない捜査。 犯人像すら絞り込むことが出来ず、それどころか浮かんでも来ない現状。 世間の目は、遺族たちに向いた。 「被害者の家族が、自作自演してるんじゃないか?」 「1人目の被害者の家族が、2人目以降を殺してる」 「優しそうな顔して、あの子の母親が犯人だ」 心無い言葉の数々。 翔は、いたたまれない気持ちでいっぱいになる。 「どうして、無慈悲に家族を殺された遺族たちがこんなに叩かれなければならないんだ……。」 翔の怒りは、無責任な世間の目に向いた。 しかし、それだけでは終わらない。 「被害者の女の子たちにも、後ろ暗い事情があったんじゃないの?」 「5番目の被害者なんて、遊んでそう。男がらみのトラブルだな。」 挙句の果てには、被害者のことを勝手に推測し始める者も現れた。 さすがにこれには遺族の会も黙ってはいなかった。 翔の父をはじめとする、遺族の会の主要メンバーたちは、記者会見を開いた。 「お願いです。私たちは何を言われてもいい。ただ、罪もなく、ただ無慈悲に殺された子供たちのことをさらし者にするのは、辱めるような真似だけはご容赦願いたい!!」 必死に頭を下げながら、そして涙しながら訴える父たちの姿を見て、翔の中で何かが崩れるような、そんな気がした。 (この日本という国では、真面目に生きている人間は理不尽な扱いを受け、家族を奪われようとも、世間は寄り添ってくれないんだな。自業自得とか、ざまぁみろとか、そんな風に思われるんだな……。最低だ。) この時、翔は全てを諦めた。 犯人が捕まるかもしれない。 有力な情報が得られるかもしれない。 翔は、この日を境に、『かもしれない』という希望を全て、捨てた。
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