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翔が全てを諦めかけた、その頃……。
「翔、犯人が逮捕されたらしい。犯人はお前と同じ歳の娘がいる……父親だ。」
悲痛な表情で事件の終わりを翔に告げた父。
事件の解決は、翔が思っていたよりもあっけなく終焉を迎えた。
犯人は、翔と同じ街にある会社の重役だった。
そしてその家も、翔と同じ街。
「こんなに近くに住んでいて、何年も捕まらなかったなんて……。
遺族の会の面々は、犯人が7人もの少女を殺し、しかも何食わぬ顔で近隣で暮らしていたことに衝撃を受けた。
自分を殺した犯人と、いったいこれまでで何度擦れ違っていたのだろう……。
その事実は、遺族たちに深い悲しみと怒り、そして心の傷を生んだ。
何故、何年も見つからずに隠れていた犯人が逮捕されたのか。
決め手は、翔と同じ歳の娘からの通報だった。
「お父さんが、もしかしたら犯人かもしれない。」
そんな娘の一言から、警察は犯人・雨宮東吾をマークしたのだ。
奇しくも、7人目の被害者が発見された、翌日のことだった。
警察は雨宮に任意同行を求めたが、その際雨宮は、
「ようやく、私のところに辿り着きましたか……。」
と、犯行をあっさりと供述。
事件は思わぬ形で解決することとなった。
自宅を包囲する警察のもとに投降する雨宮は、笑っていた。
その姿を見た翔の父は、珍しく感情をあらわにした。
雨宮が映るテレビに、リモコンを投げつけ、
「警察に任せるのではなく、この手で奴を殺してやりたかった……!」
そう歯ぎしりする父は、今まで翔が見たことのない姿だった。
多くの人に悲しみと恐怖を植え付け、そしてあっさりと逮捕された雨宮。
この事件は、栃木県の殺人事件史上最も凶悪で非道な事件として語り継がれることになる。
犯人・雨宮は、その後の裁判で死刑が確定。
現在は執行を待つ身となっている。
遺族たちの心の傷は消えぬまま、年月は経ち……。
人々の記憶から、事件は少しずつ消えていった。
翔は、その後高校・大学と順調に進学し、現在は大学を卒業し、栃木県の県庁所在地である宇都宮市にある広告代理店で働いている。
まだ入社2年目ではあるが、持ち前の根気と努力で、若手ながら仲間に頼られている。
自宅からは、車で20分の勤務地。
現代の20代男子にしては珍しく、独り暮らしを選ばずに実家から通う毎日。
両親を二人だけで残しておくのは心配だった。
姉の遺影を見て、もし突然、良からぬことを考えてしまったら……。
そう思うと、気が気でなかったからだ。
大学も県内の、しかし国立大を受験し、合格した。
県外に出なくても、今の生活で充分だ。
翔は、そう思っていた。
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