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実家から会社に通う翔。
しかし、だからと言って学生時代に友人がいないわけではなかった。
友達とも連絡を取っては頻繁に会っていたし、家族もしっかり自立した翔に門限を課したりはせず、生活は本人の自由とした。
そして翔には、家族ぐるみで付き合う幼馴染がいた。
「翔ちゃん、ご飯作りに来たよ~!」
実家暮らしだろうと構わず、平気で家に上がり込むこの女性は、翔の家の向かいに建つ家に住み、天羽一家と家族ぐるみで付き合いのある、いわば『幼馴染』である。
名前は、浅川 光流。翔とは幼い時からの付き合いであり、同い年。
互いにまるで姉弟のように育ち、翔の姉のことも『お姉ちゃん』と呼び慕っていた。
23歳になり、女性としての美しさも増した光流。
中学時代から、美少女として注目されていた彼女は、この町一番の美人さんなどと言われ、地域の人たちに慕われている。
容姿端麗、頭脳明晰、そして明朗活発と3拍子揃った美女は、未だ付き合った男性はいない。
翔が身近にいるせいなのか、他の異性にまったく興味を持っていないのだ。
「あらあら、今日は光流ちゃんが来てくれるのね、じゃぁ夕飯は豪華になりそうね。」
「光流ちゃんが来ると、家の中が明るくなるような気がするよ。」
翔の両親も、光流のことを歓迎しており、まるで自分の娘のように可愛がっていた。
光流の父は貿易会社に勤めており、長期の海外出張が多い。
母もそんな父についていくことが多く、家を長期にわたり空けることが多い。
そんなとき、光流はしょっちゅう翔の家に転がり込んでくるのだ。
「また、おじさんとおばさんは出張?」
「うん。今度はシンガポールだって。良いなぁ。」
「旅行、行けばいいじゃん。」
「翔ちゃん、連れてって。」
「お前なら、誰誘ってもついてくるだろ。」
「翔ちゃんがいい。」
駄々っ子のように頬を膨らませる光流。
翔と光流の関係は、『姉弟のよう』と前述したが、翔の方が兄のように光流のことを見守っている。
しかし、光流の方が『姉』だという主張は、光流本人が決めたことなのである。
「翔ちゃんは6月20日、私は19日。ほら、私の方がお姉ちゃんでしょう?」
そう、二人は生まれた日も近い。
まるで双子のように仲良しだと幼い頃からずっと言われてきたのだが、何かと翔の世話を焼きたがる光流、そして口には出さないが何かと光流を心配する翔の関係は、絶妙であったと言える。
「お前さ、せっかく美人だって言われてるんだから、そろそろ彼氏の一人も作ったら?」
「その言葉、そっくり返してやるよ、イケメンが。」
友達以上、家族と同等。
恋愛というものとは程遠い世界で、翔と光流は今を生きていた。
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