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「光流ちゃん、今日は泊っていくでしょう?」
この日の夕食は中華料理だった。
普段、あまり光流は中華料理を作ることは無いのだが、今回はたまたま朝のニュース番組で調理のやり方のポイントを放送していたらしく、試してみたくなったそうだ。
「なんでだよ、家が目の前なんだから、帰れよ。」
「あらあら、こんなに美味しいご飯を作りに来てくれた光流ちゃんに、そんな酷いこと言わないの。」
「そうだぞ。こんなに美人さんがうちに顔を出してくれるだけでも、有難いと思わないとな。」
両親は、翔よりも光流の味方である。
結局、光流は泊っていくことになり、父と晩酌をしながら、他愛もない話に花を咲かせるのである。
「あ……お姉ちゃんにお線香あげてなかった……。ちょっと行ってきてもいいですか?」
「あぁ、ありがとうね。きっと喜ぶよ。」
光流は翔の姉の部屋にまっすぐ向かう。
もう、自分の家のように知り尽くしている翔の家。
備品がどこにあるのかも知っている。母が教えたのだ。
「翔、お前も行ってきなさい。」
「……おぅ。」
父が翔に目配せをする。
これは、父の光流に対する気遣いでもある。
翔の姉と光流も、姉妹のように仲良く育った幼馴染である。
もしも自分に姉がいたら、そんなことをいつも言っていた光流に、翔の姉はこういった。
「私がお姉ちゃんになってあげる。お友達よりも仲良くしましょう。」
この一言で、光流は完全に翔の姉に懐いたのである。
翔・光流と姉の年の差は2歳。
やっと同じ中学に通い始め、これから3人で楽しい学校生活を送っていこう、そう思っていた矢先の事件だった。
先に姉の部屋に入っていた光流。
その背中を翔が見て、確信する。
(光流……今日もやっぱり泣いてるな……。)
家族以外にも、事件で傷を負った者がいる。
光流も、その一人なのだ。
「お姉ちゃん……。」
こちらを向いていないが、声は涙声。
こういう時、翔はどう声をかけていいのかわからず、光流が落ち着くのをただ、待った。
「落ち着いたか?」
姉の遺影の前で手を合わせる光流。
頃合いを見て、翔が声をかけた。
「……うん。」
光流は、驚くでもなく、ただ一言返事をした。
「この部屋、ずっと変わらないね。あの頃のまま。」
「あぁ……母さんが毎日掃除してるよ。」
姉の部屋は事件当時のまま。
中学3年生の女の子の部屋そのままで残されていた。
「私たちはもう、23になるけど……この部屋はずっと時間が止まったまま。お姉ちゃんと一緒に、大人になりたかったね……。」
光流は、涙を拭きながらそう呟いた。
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