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本格的に船がざわつきはじめた。
足音がバタバタしてるし、『武器をもて!』とか『殺せ!』とか聞こえる…。
うん…、俺に殺人は無理。普通のか弱い男子高校生だし。
きっと、激強剣士トマスと賢人レイモンドが何とかしてくれる。俺はそれを信じるのみ。
丸い窓から覗いて見ると、すぐ後方に海賊船がいる。
ドーンドーン
「わっ!?」
ゴンっ
音と同時に船が揺れて、俺は転んで頭を打った。
「ジーク様!」
「…ん?」
「どうなさったのですかっ!?頭から血が…、まさかここに海賊が忍び込んで来たのですか!?」
…なんの事だか解らない。
この男は誰だ。ここどこだ?
「ジーク様?」
ジーク…
そうだ、俺はジークだ。
「大丈夫だ。多分頭をうったから血が出ただけ。それより、海賊は?」
やけに静かだけど。
「もう終わりました。」
「…へ?」
「ジーク様はどこまで覚えていていらっしゃいますか?」
「ドーンドーンって音がしたのは覚えてる。」
「では、気を失っていてのですね。それから1時間以上たってますから。」
1時間も…。
「そうか。で、どうやって海賊を倒したんだ?」
「縄梯子をかけて乗り込んで来たので、油を吹っ掛けてやりましたよ。火をつけようとしたら海に飛び込んだので、とても楽でした。相手の船にはトマスが飛び移って、全員殺しました。ジーク様が賊の人数を教えて下さったので、とても助かりましたよ。」
「……そうか。役に立って何より…」
この男…乗り移ろうとしてきた海賊を焼き殺そうとしたのかよ。下手したら、こっちの船まで燃えるのに…。
しかも、トマス1人で乗り込んで全滅させたって、何それ?魔法……?でも、取説には魔法が使えるなんて載ってなかったよな。
「なぁ、レイモンド。この世界で魔法を使える奴っているのか?」
「魔法…ですか。」
めっちゃ怪訝な顔してる。聞くんじゃなかった!取説読めばいいのに、何で聞いてしまったんだ、俺!!
偽ジークだって気が付かれるかもしれない。いや…気が付かれるわけないんだけども。
「とりあえず、海賊問題は解決したわけだし、俺は休む!」
あまり接触しない方が身のためだ。中身が別人だと気付かれる事はないだろうけど、王子の偽者と疑われる可能性はある。
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