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その日の朝もいつものように家を出た。
スニーカーの履き口をつい潰してしまって、慌てて
踵を押し込んだ。門扉を開け閉めする音がしんと冷えた空気に響き、白い息が空に消えていく。
12月か
もうすぐクリスマスだな
恋人がいないと何とも居心地の悪い季節だ。
たった1日のことだが、今から憂鬱になる。
僕は、はっきり言って冴えない男子高生だった。
大学生になっても変わらない。周りはみんな、キャンパスライフを謳歌している。羨ましいけど、自分には縁の薄いことなのだと半分諦めていた。
映画研究のサークルには入っているが、たまに気の合う友人と出かけるくらいで、二年目の学生生活も相変わらずな毎日を繰り返していた。
バイトぐらいしてみるかな…
勉学にわき目も振らずに励むほど真面目でもないし、将来のこともまだ何も見えない。交際費もそんなに必要ないが、自由になるお金は欲しい。子どもの頃に憧れていた大学生の実態は、僕の場合、これまでの延長でしかなかった。
大学までは電車で30分ほど。
高校時代から電車通学は慣れている。
ふと視線を向けた先に、見覚えのある後ろ姿があった。
彼女を目にしたのは久しぶりだった。
高校の同級生。
…もっと言うなら僕の憧れだった人だ。
春乃は、確か名門のS大に行ったはず。
ここからなら電車で通う距離だ。と言うことは、駅まで同じ道を行くってことか。
僕はひとりでドキドキしながら、彼女の後を追うように歩いていった。赤信号の交差点で、僕は彼女のななめ後ろに立ち止まった。
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