僕らを紡ぐ日々

1/8
前へ
/8ページ
次へ
 その日の朝もいつものように家を出た。 スニーカーの()き口をつい(つぶ)してしまって、慌てて (かかと)を押し込んだ。門扉を開け閉めする音がしんと冷えた空気に響き、白い息が空に消えていく。 12月か もうすぐクリスマスだな 恋人がいないと何とも居心地の悪い季節だ。 たった1日のことだが、今から憂鬱になる。 僕は、はっきり言って冴えない男子高生だった。 大学生になっても変わらない。周りはみんな、キャンパスライフを謳歌している。羨ましいけど、自分には縁の薄いことなのだと半分諦めていた。 映画研究のサークルには入っているが、たまに気の合う友人と出かけるくらいで、二年目の学生生活も相変わらずな毎日を繰り返していた。 バイトぐらいしてみるかな… 勉学にわき目も振らずに励むほど真面目でもないし、将来のこともまだ何も見えない。交際費もそんなに必要ないが、自由になるお金は欲しい。子どもの頃に憧れていた大学生の実態は、僕の場合、これまでの延長でしかなかった。 大学までは電車で30分ほど。 高校時代から電車通学は慣れている。 ふと視線を向けた先に、見覚えのある後ろ姿があった。 彼女を目にしたのは久しぶりだった。 高校の同級生。 …もっと言うなら僕の憧れだった人だ。 春乃は、確か名門のS大に行ったはず。 ここからなら電車で通う距離だ。と言うことは、駅まで同じ道を行くってことか。 僕はひとりでドキドキしながら、彼女の後を追うように歩いていった。赤信号の交差点で、僕は彼女のななめ後ろに立ち止まった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加