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肩甲骨を覆うくらいの髪をおろして、サイドだけねじってクリップで留めていた。染めているのか、陽に透けた髪の色が明るく見える。オフホワイトのフーデットコートにマフラーを巻いて、膝丈のスカートにショートブーツ。
だいたい、女子の方がおしゃれに磨きをかける年頃だ。同い年の人が垢抜けているのを目の当たりにすると、自分のコーディネートにため息が出る。
今日は声をかけるのをやめておこうと心の中で誓っていると、不意に彼女が振り向いた。
僕はぎくっとして思わず彼女を見つめてしまった。
とっさのことに目が離せなくなったのだ。
彼女は僕を視界に捉えたが、またそのまま前を向いた。
気づかれてない…
寂しいやらほっとするやら、複雑な気持ちを抱えていると、また彼女がくるっと振り返った。
「遠野くん?」
「…うん」
「やっぱり。久しぶりだね」
彼女がふわっと笑って、僕はとたんに声が出なくなった。マドンナだった彼女が、クラスメイトの一人に過ぎない僕を覚えていてくれたことが嬉しかった。
「駅まで? 電車で通ってるんだ」
「うん」
冬の早朝の空気がほんわりと温かく感じてしまうくらい、彼女は柔らかな雰囲気をまとっていた。
言葉少なに答える僕に、彼女は穏やかに話しかけてくれた。空白の時間を埋めるように話は尽きなくて、駅までの距離がかつてないほど短く感じた。
「あ、逆方向なんだ」
「そうみたい」
「会えてよかった。またね」
彼女は微笑んで手を振ると、反対側のホームへ向かっていった。僕はぼんやりとその背中を見送った。
…また 会えるかも?
そんな気持ちが浮かんできてそわそわする。
授業中も上の空だ。
気がつくと、ルーズリーフは真っ白だった。
ヤバい
浮かれすぎだろ
高校時代にはなかった展開に、僕は一日中振り回されてふわふわと漂っていた。
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