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今までなぜ会わなかったのかが不思議なくらい、それからは彼女とほぼ毎日のように顔を合わせ、他愛ない話をするようになった。
聞けば、一度大学のそばで一人暮らしを始めたらしいが、また実家に戻ったのだと言う。
「家事もろくに出来なくて。親に心配されたの」
彼女はふふっと笑って肩をすくめた。
いつも春乃が話を振る役だったが、僕も映画の話なら少しは引き出しがある。お気に入りの映画が被ると、僕は嬉しくなって朝から熱く語ってしまうこともあったが、彼女もまんざらでもなさそうに笑顔で応えてくれた。
寒さは日毎につのり、大学はもうすぐ冬休みに入る。
「年明けにクラス会があるよね。遠野くんも来るでしょ」
まさかクリスマスの約束なんて出来ないけれど、年が明けたらまた会おうねと言って、僕たちは今年最後の通学を終えた。
今期は暖冬のせいか雪の心配はなさそうだ。
それでも一年で最も冷え込む日が迫っていた。
連休に成人の日の式典があって、それに合わせてクラス会が企画されていた。
式典にはあまり乗り気ではなかったが、家族や友人から「二度とないんだから」と諭されて行くことにした。なぜか母親が一番喜んでいて、初売りセールでスーツと小物、靴まで買いそろえてくれた。
「やだ。お兄もそんなカッコすると様になるじゃん」
「それは『馬子にも衣装』って意味か」
妹にもからかい半分に写真を撮られ、悪い気はしなかった。
彼女の晴れ着姿は きっと綺麗だろうな
友達の多い彼女のことだから、それはそれでこっちは遠巻きに見ているだけになるかもしれない。
言葉は交わさなくても
一目見れたら…
いつの間にか、その日が少しだけ楽しみになっていた。
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