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3.訪問
エリは背が高くしっかり者で少し大人びた落ち着いた性格、反対に麻美は小柄で愛くるしくお茶目な性格である。
その2人が京都北部の寮から大阪市内の谷崎家への長距離を急ぎ向かっていた。
美久の父である谷崎喜一郎は、谷崎無線という電気部品の会社を経営していた。谷崎無線は大阪市内にあり、谷崎家は会社の北裏手にあった。
エリと麻美は家政婦さんに応接室に通され谷崎を待った。
まもなく谷崎喜一郎が現れた。谷崎は長身で筋肉質であり、目付きは鋭いが二枚目な男だった。
「寮で同室の方達だそうですね。今日はどうしたのかね。」
と谷崎が挨拶をしながらソファに腰をおろした。
彼女達2人は顔を見合わせてから、まずエリが口を開いた。
「私は田倉エリ、彼女は多田麻美さんです。大変なことになり、報告とご相談のため急ぎ伺った次第です。」
エリは緊張でゴクリと唾を飲みこんだ。
「今朝寮へ美久さんを誘拐したとの電話がありました。」
エリが話すトーン、表情が更にその場の緊張感をもたらした。
「誘拐だって?」
谷崎が腰を浮かそうとした。
「電話は私が受けました。」と枯れそうな声の麻美。
谷崎が再び腰を深くおろし、2人の話を一言でも聞き漏らさないぞという態勢に入った。
「電話は機械音でした。今朝美久さんを誘拐したこと、明日の午後にこの谷崎家で次の連絡を待つこと、警察や学校に知らせたら美久さんの命は保証しないという内容だったそうです。」
エリはここまで一気に話した。
「美久さんは毎朝散歩に出ます。最初は電話の話を信じられずしばらく待ってました。寮の朝食にも戻らないのでそのままこちらへ伺った訳なのです。」
じっと考え込んだ様子の谷崎であったかが
「明日の午後ここで待つように言ったのだね。間違いないね」
「はい」
「それはここで次の指示を君達も待てということかも知れない。」
顔を見合わせる2人。
「明日の正午前にもう一度来て貰えるだろうか。」
と言いながら頭を下げる谷崎。
「わかりました。」と2人。
「ありがとう。学校には知らせないで欲しいから、美久は家へ戻っていることにして貰えるだろうか。」
2人は谷崎に約束をして寮へ戻ることにした。
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