3.白けたアルバム

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3.白けたアルバム

 今日もネズミのようにコソコソと帰宅した。  冷蔵庫にマグネットで止めた1000円札で母の遅番を知り、少し安心した。  なおも重たい足で部屋に上がり、クローゼットを開ける。  スカスカのポールの隅に追いやられた、色褪せないセーラー服が恨めしげに映る。  いくらも着なかったな。捨てちゃっても良かったんだけど……  視線を逸らし、床に置いてある大きめの収納箱に手を掛ける。  中学に上がった時、母が「思い出箱にしなさいね」と買ってくれた物だ。  不承不承引き出すと、それはスルリと私の間合いに入り込んだ。 (一瞬だけ、確認するだけだから……)  自分に言い聞かせ蓋を開けると、伽藍の堂にポツンと居座る惨めな卒業アルバム。 (あるのは知ってたけど……)  一度も開かれたことのないそれは、ページ同士くっつき合って、ささやかな抵抗を示した。 (懐かしさを感じない持ち主なんて嫌だよね)  なんの感慨もなくアルバムを開く。  入学式の集合写真、自分が写っている唯一の写真だ。  でも、周りの顔、カオ、かお……。  記憶が曖昧で誰も思い出せない。  小学校の同級生、チカちゃんかミカちゃんかも、はっきりしない。  真凛って言ったっけ?  さっきの子はどこにいるんだろう?  ページをめくると、一際鮮やかな笑顔の少女がいた。  彼女だ。  髪全体が自然な茶髪ではあるが、間違いなく彼女だ。  私服だとすぐ見つかる。5月の遠足かな?  いずれにせよ、その写真に、私は既にいない。  以降自分が登場することのないアルバムを空虚な箱に放り込み、クローゼットを勢いよく閉める。  やっぱりあんな子知らなかった……!  セーラー服なんて見たくもない!  これ以上考えたって無駄だ。  やること終わらせて、とっとと寝よう。  今日はすごく疲れた……
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