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5.濁色の胸中
そこはかとなく心地の悪い時間に終わりを告げるように、放課後のチャイムが鳴る。
さっさと帰ろうと席を立つと、担任に声を掛けられた。
「ちょっと職員室に寄ってくれないか? 5組の山崎先生が話したいらしい」
再び不快感が込み上げてきた。
5組って、彼女のクラスよね?
私は関係ないのに……。
憂鬱な気分で職員室に入ると、ストライプスーツの若い女性教員に手招きされた。
「帰宅前にごめんなさいね。宇佐美さんと同じ中学だったって聞いて。彼女がセーラー服を着て来る理由を知らない?」
そんなのこっちが知りたいわ。
私は着ないって分かってるくせに、どうして……?
「すみませんが、彼女とは親交がなくて。私、中学入ってすぐ引きこもっていたので……」
「あら、そうだったの。嫌なこと思い出させちゃったわね。」
「いえ……」
「はー、困ったわ。何度も注意してるし、親御さんにも伝えたんだけど……。校則違反だからね、場合によっては停学も……」
“停学“ーー?
昔の私みたいに、学校へ行けなくなっちゃうってこと?
でも、制服を頑なに着続けてるのは彼女よね?
むしろ、私と同じように引きこもる側になれば、謝罪になると思ってるとか……?
考えているうちに、怒りが湧いてきた。
私に構わないでって言ってるのに!!!
職員室を出ると、怒りにまかせ家まで一直線に帰った。
冷蔵庫のお札を確認すると、階段を上がりながら服を脱ぐ。
クローゼットを開けハンガーからセーラー服をもぎ取ると、頭から被る。
着てしまえばなんてことはない。
なんの思い入れもない自分にとっては、コスプレのようなものだ。
とはいえ、こんな格好で高校に行くなんて……。
一言言ってやらなきゃ、気がすまない!
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