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6.彩られたメモリー
もちろん私はこんなふざけた格好で高校になんて行かない。
でも……
目的地に近づくにつれ、頭が冷え、胸がバクバクしてきた。
もしかして、私も十分大それたことをしてるんじゃ……?
でもここまで来たら、引き返せない。
私はかつて1ヶ月だけ通った中学校の校門を抜けた。
正面玄関の来客用スリッパを使おうか一瞬迷ったが、制服と噛み合わない気がして、靴下のまま入った。
ノックし職員室に入った途端、しまったと思う。
担任の名前を覚えていなかったのだ。
幸い、見覚えのあるボリューミーな頭髪が見えたので「先生!」と声をかける。
「お久しぶりです、卒業生の有村です」
「うん? 卒業生? この春の?」
先生はセーラー服の柚を訝しげに見ながら頭を掻いた。
「1年1組で一緒だった宇佐美真凜さんの住所を教えていただけませんか?」
「プライバシーで教えられないんだよ。懐かしいな。宇佐美にも昔そんな話を……」
先生はハッとして「お前、有村か? 不登校の……」と私に向き直ると、「ちょっと待ってな」とデスクで名簿を引っ張り出し、電話をかけ始めた。
(そっか、セーラー服なんて着て忍び込まなくても、中学に電話すれば良かったんだ)と自分の軽率さを反省しながら、先生の会話に耳を澄ます。
「宇佐美か? 今有村が来ててな……」
頭が真っ白になった。
あろうことか先生は、彼女に事情を説明しているのだ!
こっそり自宅を聞いて、偶然を装って文句を言いに行く計画が台無しだ!
それに、自分が彼女の家を知るために中学に来たことまでバレてしまった。
恥ずかしくて全身から耳まで熱が込み上げてきた。
「宇佐美、今来るらしいから、住所は直接聞けな」
「へぇい!」
電話から戻った先生に不意に話しかけられ、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「くるんですか? ここに? どうして?」
混乱する私に先生は「あの時は何もしてやれなかったからな、今回は特別だ」と遠い眼差しで語り出した。
「昔、宇佐美にも、有村の家を何度も聞かれてたんだ。宇佐美が転入してすぐ有村は来なくなっただろ?だから印象に残っててな」
「転入生だったんですか? 彼女」
「やっぱ覚えてないよな。何であんなに住所を知りたがってたのか……ま、宇佐美は全体的に距離感近いからな」
言われてみれば……
私が引きこもる直前、転入してきた女の子が確かにいた。
彼女は空気も読まず私の席まで自己紹介に来た。
私は、そんな彼女と目も合わせずに……
ーー今更そういうのいらないから。もうここには来ないしーー
思い出した。
無視したのは私の方だったんだ……
「ありがとうございました!」
先生に礼を告げると私は廊下を駆け抜けた。
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