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【17時30分】
忙しい時間帯に入りその後も駅で連続で何人か客を乗せた真田は、最後の乗客を送り届けたY町から幹線道路を走り再びT駅へ戻ろうとする。
信号待ちで停まった時にそろそろ薄暗くなってきた事に気付きライトを付ける。
すると信号待ちをしている真田の車を見付けた男が慌てて手を上げて前から駆け寄って来る。真田は左側の後部座席のドアを開ける。
息をぜぇぜぇ切らせたその中小企業の社長っぽい男は真田の車に乗り込むと一息置いて、
「A市の会社まで行ってくれ!急いで!」
まあまあの長距離なので真田のテンションが上がる。
「分かりました。けど、急がせるのは無しですよ!」信号が青に変わると真田は車を発進させる。
暫く軽快に車を走らせていると唐突に運転席から無線の音が鳴った。
誰が鳴らしているのか見てみると、さっき送り出したばかりの新人として今日から営業に出ている一條からだ。
長距離のお客さんを乗せて機嫌のいい真田は軽快にマイクを上げて、
「お疲れぇ~い。イェ~~イ」と、
いつものふざけたノリで応対する。
すると一條から、自分でも行き先が分からないという、どうやら痴呆っぽいお爺さんを乗せたんだがどうすればいいのか分からないという事を伝えられる。
上機嫌だった真田は水を指されたようで一瞬固まった後、「もう警察だ!警察。警察に連れて行ってやってくれ。そういう爺さんは」とめんどくさそうに言い放った後でフッと、そう言えばT駅にはいつも行き先を忘れる上村というお爺さんがいた事を思い出して一條に伝えた。
「おい!急いでくれよ!」後ろに乗ってる中小企業の社長っぽい男が真田を急かす。
「分かってますとも!社長!!」真田が調子良くアクセルを強く踏む。
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