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【18時50分】
キィーーッと急ブレーキを踏んで真田の車が指定されたA市の会社の前に停まる。
「着きました!社長!」真田が振り返り愛想を振り撒く。
「ああ、結構早く来れたなありがとう」そう言って社長は8千円を越えるメーター料金を支払った。
「毎度ありがとうございますっ!」真田は調子のいい挨拶をしてドアを閉めて出発した。
上機嫌な真田はそこからT駅に戻る幹線道路の車内でラジオをつける。
「そりゃあやっぱり、こういうお客さんも居ないとな。クソ客ばっかり乗せるのはやってられねぇって」
クソ客とは、各タクシー運転手側が勝手にそう呼んでいるだけであってどのような客を指すのか明確な定義などはもちろんないのだが、何かにつけて文句を言うクレーマーや、低単価な上に時間や手間がかかり尚且つそれが当たり前だと思っている客を差す場合が多い。逆に真田達のような栄行タクシーの乗務員はクソ運転手と呼ばれる事ももちろん多い。
ラジオを聞きながら真田は普段あまり走らない景色の街並みを走ると、一軒の旨そうなラーメン屋を見付けたので少し休憩するつもりでその店の駐車場へ入り車を止めた。
ラーメン屋の中へ入り店の中を見てみると、4人掛けのテーブルに座り4人共全員が体重100キロは軽く超えているであろう巨漢グループが美味しそうにラーメンを食べていた。
真田はそれを横目にカウンターに座り、女性店員にラーメンを頼む。
ラーメンを完食して店から出たところ、先ほど店の中にいた巨漢グループが駐車場に止めてある真田のタクシーの前で待っていた。
「あんたこのタクシーの運転手だよね?僕たちを乗せていってよ」
断る事も出来ず4人がぎゅうぎゅう詰めになって車に乗る。
真田のタクシー車両はスポーツカー並みに車体が低くなり、ギシギシとパンク寸前になりながら走っていた。
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