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【21時10分】
真田はカップルを降ろした場所から車を走らせながら、
「見たかこの!タクシー運転手の真のパワーってやつをよーー!」
勝ち誇り会心の一撃を出したつもりになってハンドルを握る。
そして目についた自動販売機の前にハザードランプを点滅させ車を停車させる。
その場所でコーヒーを飲んで休憩していると唐突にピピーーと車から無線の音が聞こえてきた。
誰が鳴らしているのか確認すると、丹波という住職の仕事をしながら副業でタクシーに乗っている変わり者だ。
「おう、おつかれ~和尚。どうした?」真田はマイクを上げて応対する。
丹波は「すみません班長……今からこっちに来てもらっていいですか?」と暗い声を出す。
「どうしたのよ?」真田が返すも「とにかく来て下さい、来たら分かりますので……。場所は~~」と告げてくる。
真田が今いる場所からすぐ近くだ。
仕方ねえなと、真田はコーヒーを一気に飲み終えると教えられた場所まで車を走らせる事にした。
5分程度幹線道路を走りそこから1本脇道に入るとすぐに丹波が立ち竦んでいるのが見付かった。
丹波は真田の車が到着した事に気付くとすぐさま走り寄ってきて「すみません!」と言った。
真田は「ん??」と言いながら車から降り丹波の車に目をやると、思いっ切りバックで電柱にぶつけている。リアバンパーからウインカーまで大きく破損していた。
「あああぁぁあ!お、お前!」 真田はその車の姿を見てヨロヨロと後退りした。
「すみません!班長!!」丹波は全力で頭を下げ平謝りする。
「すみませんったってお前………ここまでぶつけてたら社長を誤魔化す事も出来ないだろう……?」
「うぅぅぅぅう………」
丹波は下を向いて燃え尽きた男の顔になっていた。
丹波のその情けない姿を見て、うーーん……と暫く唸った後で真田は「仕方ねぇな……あの手で行くか」と呟く。
そして、「じゃあその車に乗ってついて来い、和尚!」そう言うと自分の車の運転席に戻る。
丹波はぶつけてボロボロになった車に戻りエンジンを掛け、「どこへ行くんですか?」と恐る恐る尋ねる。
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