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ライオンの夫婦が仲間になりたそうにこっちを見ている。
……いや、しないよ。
しないしない。そんな目で見られても仲間にはしないよ。
単体ライオンならまだ考えたけど、夫婦ライオンって。絶対使いもんにならないじゃん。
片方がガオーて吠えたら、もう片方がガオガオって吠えるわけでしょ。そして、「私たち、息ぴったりだね」って愛の確認をするわけでしょ。
いらないいらない。絶対にいらない。
「よっしゃーこれからみんなで力を合わせて魔王を退治するぞ」
ってときに、ライオンの夫婦に愛の確認をされてみ? 士気が下がる。
最悪、最悪、勇者の僕はいいさ。モテるからね。
でもさ、スキンヘッド魔法使いとモジャモジャベジタリアンが黙ってないと思うんだよね。あの2人は、モテないから。
スキンヘッド魔法使いとモジャモジャベジタリアンっていうのは僕の仲間。専門学校時代に出会って以来、ずっと3人でパーティを組んで旅をしている。気の合う奴らだけど、2人はモテない。本当にモテない。
僕? 僕はモテモテですよそりゃ。
勇者ですし、このルックスですもん。
嘘じゃないよ。専門学校時代も彼女いたしね。卒業したら結婚して夫婦になろうって約束までしてたけど、卒業3日前にフラれました。
いや、嫌いになったからフラれたわけじゃない。それは違う。きっと彼女が、妻として勇者の僕を支えることにプレッシャーを感じてしまったんだと思う。
彼女にはそんなプレッシャーかけたつもりはなかったんだけどな。夫婦って一緒にいられるだけで幸せなのに。
そっか、それだ。
僕は勇者だから、1年の半分以上を外で過ごす。家に帰ってこられるのはほんの数ヶ月。きっとそれが耐えられなかったんだろうな。
ごめんな、でも僕は勇者だから、君だけを幸せにしてればいいだけじゃない。世界中のみんなを幸せにする義務があるんだ。
スキンヘッド魔法使いとモジャモジャベジタリアンにはさ、付き合うとか結婚を意識した相手とかいうのがないからさ、ライオンの夫婦が仲間になったらきっと、怒り狂うと思う。
2人は、大切な仲間だし、大好きな親友だからさ、2人のことを怒らせたくも悲しませたくもないわけよ。
だからごめんな。
ライオンの夫婦よ。君たちは僕の仲間になって、世界を救うって感覚を一度味わって見たかったのかもしれないけれど、その願いを叶えてあげることはできそうにない。
僕は勇者だから、ライオン語分からない。、だけど心でなら会話できる。
夫婦を危険な目に合わせたくないこと、今後生まれてくるかもしれない子ライオンのためにライオンの夫婦には安全安心な場所で優雅に過ごしてほしいこと、君たちの能力ではきっと戦闘では役に立たないこと。
言いたいことを全て、ライオンの夫婦の心へぶつけた。これできっと分かってくれるだろうと。
「ガオ ガオガオガオ? ガオガオ ガガオ」
「オッケー もちろんタキシードで出席するぜ」
「ガオガオ ガオガオ ガガ ガオオガ」
「3月15日土曜日のお昼12時から オッケー」
心と心が通じ合った瞬間だった。
心があれば、言葉なんて必要ない。伝えたいことは伝わる。
どうやら仲間になることは諦めてくれたようだが、ライオンの夫婦の結婚式に招待された。3月15日、土曜の12時から。その日は、自動車免許の更新に行こうと思っていたけれど、次の週にしよう。
仲間にすることを断ったのに、結婚式の出席まで断ったら何をされるか分からない。
いくら勇者とはいえ、ライオンの夫婦に噛まれてしまったら、かすり傷ではすまないと思う。きっと心にも深い傷が残るだろうし。
「ガオー」
「ガオガオ」
愛の確認をするライオンの夫婦。
「あー羨ましいな」
ライオンの夫婦の仲睦まじい姿を見て、僕も早く結婚したいと思いつつも、世界を平和にするっていう宿命を全うしようと心の底から思った。
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