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第一章 出会い
ある日、残業で疲れきった私が家に帰ると、なぜか鍵が開いていた。
かけ忘れ?いや、朝家を出る前にきちんと鍵をかけていたはずだ。まさか...空き巣...!?
私の頭の中が、ぐるぐると回転した。
「...入ってみるか」
誰かに言うこともなく呟いた。
玄関のドアを開ける。すると、そこにいたのは...
『げっ、帰っテきタ!』
女の子が部屋を荒らしていた。...それも、羽の生えた女の子。
一瞬思考が停止したが、はっと我にかえった。
「ええっと...君は?」
とりあえず、刺激しないように話しかけてみる。
『ワタシ?ワタシはね、天使でアーる!』
むん!と胸を張られた。...いやいやおかしいだろ。
「ごめん、よくわかんないんだけどさ。君は、空き巣とかの類いではないんだね?」
『空き巣?なんダそれ?』
天使と名乗るその子は、こてんと首をかしげた。まぁそもそもの話、こんな小さな子が空き巣しないか...
「お父さんやお母さんは?」
『???』
今度は反対方向に首をかしげる。
「...家族の方は?」
『さっきカラなに言ってルンだ?』
それはこっちの台詞...
頭を抱えていると、テーブルにメモが置いてあった。
あんなメモは知らない。もしかしたら、この子が何者なのか、手がかりがあるかもしれない...
ってか、あってくれないと困る。
恐る恐るメモを手にとる。
そこには、綺麗な字でこう書いてあった。
[すみません すこしの間だけ、この子を預かっていてください 可愛い子です よろしくお願いします 母である私は、事情があり面倒を見てあげられません 申し訳ありません]
「...」
私は何度も読み返す。何度も何度も読み返す。
「...はぁぁぁぁぁ!!!???」
『おい、うルさイゾ!!!』
まぁ、そんなこんなで今はこの子と暮らしている。
この子は昼間寝ているので、騒がしくならないし、夜は基本私が帰ってきた音で起きる感じなので、それなりになんとかなっている。
しかし、ただ一つだけ、引っ掛かることがある。
それは、この子の名前を知らないと言うことだ。
知らないというより、聞けないと言った方が正しいかもしれない。
私は何度かこの子に名前を聞こうと思ったのだが、その度にうまく声が出なくなった。
まるで、なにかが名前を知ることを拒むように。
『おイシー!やっぱリミホのりょうリはサイコー!』
「褒めたってハンバーグは追加してあげないからね」
『チェッ』
...名前は知らなくても、仲良くなれればいいか。
美味しそうにハンバーグを頬張るこの天使を見ていると、明日も頑張ろうという気になれるから不思議だ。
夕飯を食べ終わり、食器を洗っていると、天使が疑問を持った顔で話しかけてきた。
『ねェミホ』
「んー?」
『ミホはさ、逃げナイの?』
「え、なにが?」
『ミホ、毎日おしゴト、つらそうダヨ?』
「っ...」
答えられなかった。
確かに仕事は辛い。だが、仕事をやめたら生きれなくなる。
「生きるためには、ちゃんと働かないとね!」
私は必死に笑顔を作る。
しかし天使は、真顔になって続けた。
『...しネバいいんジャナイかな?』
「へ」
『しんダラ楽になれルヨ』
「そ、んなっ」
反論したいが、できない。
私は心のどこかで、死んだら楽になるという考えがあったのかもしれない。
でも、死ぬのに踏ん切りがつかなくて、ずっとダラダラ生きてきた...?
私は俯き、唇を噛む。
『ミホ』
顔をあげた。
『シニナヨ』
そこにいたのは...悪魔。
天使ではない。私を死へとおいやる、悪魔だ。
「やめっ...!」
『ミホ...ミホ...』
天使だった子は、こちらへゆっくりと歩み寄る。
『シは...キュウサイ、なんだヨ...?』
「いや...いやぁぁぁぁぁぁ!」
手を掴まれた。
ああ、もう無理なんだ。短い人生は、ここで幕を閉じるのだ。
私は、ぎゅっと目を瞑った。
『...スースー』
「...?」
そっと目を開ける。
するとそこには、私の腕を掴んだまま、普段と変わらない顔で寝ている天使がいた。
「えっ...」
私はそっと天使に手を伸ばす。
『ミホ...だいスキ...』
「...」
さっきのは一体なんだったのだろうか。なにかに乗っ取られていたのか?天使が?
真相はわからないが、とにかくいつも通りに、天使を布団に寝かせた。
「...おやすみ」
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