(一)

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(一)

「水上咲良って覚えてる?」  私はそう言うと、三分の一程残っていたビールを飲み干して、ジョッキをテーブルの上に置いた。 「誰だっけ?」  神田の飲食店街の一角にある居酒屋「いらご」の店内で、幼なじみの鷹野大樹が古い木製テーブルの反対側でそう答えた。  大樹が水上咲良の名前を聞いてそう答えたのは、間違いなく、すっとぼけて忘れたフリをしているからだ。他の人は額面通りに受け取るかもしれないが、私にはわかる。大樹のことは小学校に上がる前から知っているのだから。 「彼女、今、こっちに出てきているらしいのよ」 「そうなんだ」  まるで自分には関係のないかのような口ぶりだった。 (続く)
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