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「すみ…」
すみませんが人違いでは?と言いかけた言葉を遮ったその男。彼の不可思議そうな表情を汲み取ってなのか、
「あれっ?生浜翔さんですよね」
そう、確認を取って来る。
(おっ、俺の名前知ってるのか、誰だ?名前を知っているってことは、人違いではないってことだよな)
あからさまに嬉しそうなのを見てしまっては、誰なのか聞きにくくなってしまう。ここは、会話の中から探るしかない。そう思った翔は、半分思い出したような曖昧な素振りを貫くことに決めた。
「あっあ~、まあそうですが」
「良かった、お元気ですか?」
「ええ、まあ元気ですが、え~と、あな・・・」
名前が分からない以上、二人称で呼ぶしかなく、”あなたも元気ですか?”と言いかけて、ここまでの人生で一度も”あなた”何て言葉を口にしたことの無い翔は、恥ずかしくなり咄嗟に言い換える。
「・・・あな…、あざ、朝から元気そうですが、お変わりは無かったですが」
(いかん、言い換えたら嫌味っぽ言い回しになってしまた)
気分を害されてないかと徐に上目遣いで相手の様子を窺ってみると、これが意外にも清々しく応えて来る。
「ええ、お陰様で元気一杯ですよ。翔さんと会ったのはあれ以来ですね」
(おお、ノー天気で良かった。しかし、会ったことがあるってことは、俺が忘れてるってことなのか…)
割と記憶力には自信がある翔にとっては、ますます自力で思い出さずにはいられない衝動に駆られてしまう。
「”あれ”と言うと…」
「あれに決まってるじゃないですか。2年前の関東インカレの」
(関東インカレ?ってことは、大学の頃ってことだよな。だとすると、範囲は絞れるか…)
「あの時は、惜しかったですよね。出だしで若干躓き加減だったでしょ。あれさえなければ僕は優勝だったと思いますよ」
「あっあ~…」
翔はその男が誰だか思い出した適な雰囲気で話を続ける。
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