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目的は…
そんな見せかけの演技をする翔と裏腹に、本心から神妙な顔つきに変わって行く田辺弘道。どうしたんだこいつと思っていたら、
「実はですね、翔さんにご相談があるんですけど…」
急にそんなことを言って来る。
「相談、僕に?」
知らない奴の相談など受けたくないが、田辺弘道は勝手に続けて喋り出す。
「半年前に妹さんに通算4度目の告白をしたのですが、フラれてしまいまして」
「妹の???」
(そういえば、そんな奴がいると妹から聞いたことがあったような気がする。ってことは、こいつ妹と同じ演劇部だな。確か他校とも頻繁に交流があるようなことを言ってた気がする。
最初こいつを不快に感じたのも、舞台上で見せる過剰な作り笑顔で俺のことを見てたからってことなのか…。
しかし、そんなんで馴れ馴れしく接してきても思い出せる訳ないに決まってるだろ!
何なんだよ、こいつ。自意識過剰の三乗だな)
「その前に、田辺君は俺と会ったことあったけ?」
一年後輩で自分よりも妹の方がメインだと認識した途端、いつの間にか一人称が僕から俺に変わり、平気で失礼なことも聞けるようになる翔。
「そんなぁ、翔さんにも一度軽くですけど挨拶したじゃないですか。あと三度もすれ違ってますし、会釈はしてますよ」
「悪い、そうだっけか…」
(ほぼ、面識なしと同じゃないか)
翔はそう思う。
「実は、妹さんは僕のことを友達以上に見れないだそうなんです。どうしたらいいですかお兄さん。5度目に挑戦してもいいものでしょうか。出来ればずっと応援してきたお兄さんに何とか…」
「ちょっと待て」
皆まで言わせると面倒そうなので、そこで話を遮る翔。
(お兄さん呼びしてきやがったなこいつ。
なる程、これが俺に接触してきた目的ってことか。めんどくせー、めんどくせーけど、一応俺を応援してくれてたのなら、無碍に扱うのも可哀そうだし、妹のことはやんわりと諦めさせた方が後々面倒なことにならない気もする。
つい最近、妹には彼氏が出来てしまったことだし…)
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