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そんな事を考えていると、あの自慢げに幸せアピールしてきた妹の顔を思いだす。ついでに最近妹と喧嘩した時の腹立たしさも思い出し、今回の面倒事も加えて次第に腹が立ってくる。
どうせ田辺弘道を諦めさせるのならと、普段妹に言えないことを言ってやりたくなる。
そこで、過去にあった妹の欠点を全て拾い上げ誇張し、それに多少の虚像を加味する。更に頭の中で盛大に膨らまして、空想の人物を作り上げると、あとは言いたい放題。
「それは田辺君、君はラッキーだったと俺は思よ。君の見ていたのは、外面が頗る良い妹の一面だけだ」
そう言い切る。それに、
「それ、どういうとですか」
少し不機嫌になる田辺君。
「これは家族だから知ってる事なんだが、あいつは気難しいし、怒りっぽい。一日の半分はブツブツ文句を言ってる。屁は臭いし、トイレも長い。それにめっちゃ無精なんだ。休みの日は歯も磨かないし、少なくてもこの半年は部屋の掃除をしたのを見たことが無い。見た目と実際は全然違うんだ。
悪いことは言わない、止めた方がいい。君に会った人はきっと他にいるはずだから。大丈夫、思ってる以上に世間には妹以上の良い子が一杯いるから。早く妹の、魔法から覚めた方がいい。あいつは性悪の魔法使いだ。俺もあいつには苦しめられている。実は、俺が競技中に転んだのもアイツのせいかもしれない」
全然やんわりではなくなってしまう。
「えっ、そうなんですか?!」
それに相当純粋なのだろう、驚き気のあまり顔が強張る田辺君。
(100倍は盛ったけどな)
妹の為だと言うことにして、ここぞとばかりに溜まっていた腹立たしさの仕返しを、この場を借りてぶちまける翔。
おかげで、一時、爽快な気分になる。しかし、
(俺もこのくらい思われてみたいよな…一生に一度くらいは)
直ぐに妹への羨望に、溜息をついてしまう兄であった。
<おわり>
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