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カツン。カツン。 さあ進め。 カツン。カツン。 靴の音が列を成す。 カツカツカツカツ。 出口を求めてさ迷い進め。 振り向く理由などありはしない。さあ進め。さあ進め。さあ、さあ、さあ進め。迷うな進め。 カツリ。 歩みを止めて振り向くなかれ。 目玉がお前を見ているぞ。 パーティー会場を後にしたゲストたちは二度と開かれないことを願いながら扉を閉めた。ショーケースの人形たちは永い眠りにつくだろう。 ゲストであった一人を中に残し、閉ざされた扉はゆっくりと閉まっていった。その部屋は酷く冷たかった。 小さな通路を彼らは進んだ。空き店舗の横にある小さな通路だ。彼らはやって来た時と逆の順序を辿ろうとしていた。 誰もが、このまま日常へと帰れる。そう思っていた。おかしなパーティーのことなんて忘れて、またあのつまらない世界へと戻れる。そう信じていた。 少しでも早く外に出たい。家に帰れば安心と安全が待っている。 彼らはシンデレラのように時間を気にした。 不可思議な世界では時間の感覚が曖昧となる。一分が一時間に、三十分が一日に、一年が一生に。 時計の針は自由を得たかのように気紛れとなる。中の歯車は空回りし役目を放棄する。 デジタルの数字は嘘をつきだす。誰が人に対して正直であれと決めたのだろう。 それは時間を支配する神の仕業ではなかった。単純に、時計が意思を持ったのだ。 時間は正しく流れている。しかしそれを示す機器が気紛れを起こした。 彼らは人に「時間」という数字を告げようとしなかった。何故なら、ゲストとして招かれた人らは物を無下に扱ったためである。あのショーケースが並んだ部屋での出来事は、ゲストたちが身につけた物たちにしっかりと見られていた。 物は物に味方するだろう。だからほんの少しだけ、この許された時間と空間の中で意地悪をしたくなったのだ。主人の時間を狂わせてやろう、と。 人は時計が示した数字を信用する。自分では正確な時間をはかれないからだ。その数字は統一されたものでなければならない。自分だけが異なる時間を生きるなど、あってはならないことである。 彼らは理由は違えど、シンデレラのように魔法の時間が終わるその時を気にした。ひたすらに、魔法が解けるその瞬間を待ち望んだ。魔法が解ければ家に帰ることができる。彼らはそう信じていた。 時計たちは主人を家に帰したくないようであった。 彼らは小さな通路を曲がった。すると大きな通路に出た。彼らがよく知っているショッピングセンターの広い通路だ。しかし昼間の明るい光は何処にもない。 今は何時だろう。時計を見ても返事は期待できそうにない。 彼らは言葉少なく、周りを見た。幅が広く天井が高い通路はよく見知ったものだった。ただ、ライトが非常灯の薄明かりに代わっただけ。彼らはほんの少しだけ安堵した。 少なくとも、両側の壁に人形たちが填められた狭い通路と比べたら遥かに現実味がある。彼らが今欲しいのはスリルやファンタジーではない。 彼らは出口を探して歩き出した。
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