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カツン、カツンと彼らは靴を鳴らした。列にはならず、通路一杯に広がって歩いた。その方が安心できたからだ。
隣に誰かがいた方がその時の彼らは安心できた。冷めた人形ではなく、熱を持つ生きた誰かが側にいるだけで、人は安心できるのだと彼らは思ったのだ。少なくともその時までは、彼らは思っていた。
一体今は何時だろう。彼らは繰り返し時計を見た。センター内の壁に掛けられたどの時計も、彼らの信じていたスマートフォンの時計も、どれ一つとして人に味方する物はいなかった。
彼らは諦めて裏切物を仕舞った。
店は何処も閉店していた。シャッターが下ろされ、照明が全て消された店舗からは人の気配はしない。今は営業時間外なのだ。
彼らは諦めて出口を目指した。
カツン、カツンと彼らは靴を鳴らした。鳴らし続けた。
しかしいくら行っても出口が見当たらない。外が見えないのだ。
そのショッピングセンターは営業時間が過ぎて従業員が外に出ると出入り口のシャッターを下ろしていた。一見閉店した店舗と同じようにも見えるだろう。だから彼らは見過ごしているだけだと思い、ゆっくりと歩き続けた。
一ヶ所を通り過ぎたとしても別の出口がある。彼らはそう信じていた。だから歩き続けたのだ。
時計は未だに無視を決め込んでいる。
出口は姿を現さない。通路にはゲストたちの足音だけが響いていた。カツン、カツンと響く音の中で、誰かが思った。
自分達は部外者じゃないのか。
パーティーへは呼ばれた側、ゲストであった。主催者であるホストからの招待状も届いていたゲストたちは「お客様」、特別な扱いである。しかし今、この空間の中でそれは通るのだろうか。
周りの様子は照明を失った通路である。 それ以外は「いつも通り」の通路だ。それなのに何故か別世界に来てしまったかのような錯覚を覚える。そう、まさに裏世界である。
いるはずのない時間にいるはずのない人がいる。それだけで何かが違ってしまう。
あの部屋の扉を潜った瞬間に彼らはゲストとなり、ゲストではなくなった。既に時間はパーティーの終了時刻を大幅に越えている。彼らはこの場所に呼ばれていない者なのだ。
ではこの時のメインは誰なのか。
時計たちは主人に見向きもしないように眠りについた。仕事を放棄し休息を取った彼らが目覚めた時、果たして再び針と数字を正確に示してくれるのだろうか。
カツカツと彼らは靴の音を速めた。
どれほど迷いが生じても、彼らには諦めるという選択肢はなかった。絶対に帰ることができると信じ続けなければ、彼らは立っていられない。その目で見た「お人形さんごっこ」に自分は加わりたくない。誰もがそう思っていた。
磨かれた石の床はカツカツと音を立て続ける。冷たい音だった。
靴の音は、床に立つ人の数を示していた。
カツリ。
今、一人の音が何処かへ消えた。
いつしか非常灯の照明が点滅するようになった。パチパチと瞬きをするように、ライトは暗闇と薄暗闇を往復した。そんなこともあるだろう。
ほんの一瞬でしかないはずの暗闇に染まる時間を、彼らは誰も気にもしなかった。
彼らはカツカツと靴を鳴らし続けた。やがて疲れ、靴の音はカツンカツンと戻っていった。
通路は酷く長かった。本当にそうだろうか。これほど長い通路がショッピングセンターにあっただろうか。いや、なかったはずだ。しかし長いのである。彼らにとって、その通路はとてもとても長いものなのである。
時間の感覚が狂わされていた。そして同時に、空間の感覚も狂っていた。
一見普通のように感じられるが、同じ場所を繰り返している。そんな場合が多いのではないだろうか。その場所では遠近の感覚が狂う。彼らは今、そんな場所に入り込んでしまっていた。
彼らにできることは、ただ、ただ、足を動かし靴の音を立てることだけである。
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