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警備員の男たちは自分らの時間に自分らだけの空間で好き勝手をしている。罪を問う者は誰もいない。何故なら他に誰もいないからである。 この夜の時間は男たちがホストである。男たちの気分次第で来訪者は天国にも地獄にも招かれるのだ。 施設の中にはいたるところに監視カメラが設置されている。それは防犯という意味の裏で管理という顔も持つ。 より良い獲物を手に入れるために、男たちは見張り、選別し、機会を画面の前で窺っている。息を潜めて、今もなお一つのカメラという目玉を通して複数の目を光らせているのだ。 ここにいる! ここにいるよ! 気づいて! 誰か気づいて!!! 気づくはずがない。 彼らがいた通路からではその部屋は遠すぎた。どの道を行けばその部屋へ辿り着くかなど、彼自身知らないことである。 彼はもう其所から逃げ出せられない。 カタン。 物音がして入り口が開いた。彼にとっては出口であるそこから連れてこられたのは、唇を歪んだピンクに染めた若い女性だった。開かれた口には声が出せないように丸められた布が詰め込まれている。 彼女は彼と同じように手を後ろで縛られていた。隣には先ほど出ていった長身の男が満足そうな顔をして立っている。男は狩りが成功したと、他の男たちに女性を見せびらかしているのだ。 男たちは揶揄したり口笛を吹いたりした。銃の男も例外ではなく、長身の男を讃えた。 彼は知った。もうここから出ることは出来ないのだと。 長身の男はイスを用意した。丁度彼の隣に並ぶ形である。男は彼女にも彼と同じように通路の画面を見せさせるつもりなのだ。 イスに座らされた彼女が画面を観た瞬間、彼は感じた。キラキラ輝いていた彼女の目が一瞬にして光を失ったのを。そして自分の中にじんわりとした何かが滲み出すのを。 彼女は一つの画面を見つめながら泣いた。唇をルージュに彩った若い女性が何かを探しているところだった。画面の中の女性は足を引き摺っていた。怪我をしているのだろうか、きっと痛いだろう。それなのに女性は誰かを探しているのだ。 ピンクの女性は知っている。ルージュの女性が何を探しているのかを。自分だ。急に消えた自分を探しているのだ。 不安そうな顔をしているルージュの女性の側に行って彼女は声をかけてあげたかった。大丈夫よ、ここにいるわ。今すぐ声をかけてあげたかった。その口には布が詰められているのにも関わらず。 彼女は画面の女性を食い入るように見つめ続けた。 そして。 そんな彼女の目の前に、長身の男は立ち塞がった。 手にはナイフを持って。 彼女は男を下から睨み付けた。最後の足掻きだった。 そんな彼女を嘲笑って、男は。 ナイフで彼女のドレスを引き裂いた。 ただの布切れになったドレスを男は破り捨てた。 彼女の目は真っ暗に染まった。 そんな彼女を見て、ほんの少しだけ、ほんの、少しだけ、彼は興奮した。いや、違う類いの興奮なのかもしれない。 その時の彼の頭の真横には、あの拳銃が突きつけられていたのだから。 彼は死の真横に座らされていた。それが興奮を煽っていたのだ。今にも殺されかねない生の興奮と、目の前の女性の生肌に対する性の興奮と、彼は両極端のものを脳に塗りたくられていた。狂ってしまいそうだった。狂ってしまえば楽だった。 だが何処かにまだ残ってしまっていたのだ。逃げられるかもしれないという、希望が。それが彼を其処に繋ぎ止めてしまっていた。 彼は逃げられない。 彼女も、逃げられない。 男たちは色めき立った。これからパーティーが始まるかのように、歓声をあげた。 彼女の顔は真っ青になっていた。そして、誰かがこう言うのだ。 「もう一人、女が欲しいな」 彼女が見つめていた画面を指差して、その男は言うのだ。ルージュの女性を拐ってこよう、と。
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