二重瞼

6/6
前へ
/26ページ
次へ
交差点で信号が青になるのを待っている。周りは人で溢れ返っている。 ねえ、これを見た人。私、何か悪いことをしたかな。してないよ。悪くないよ。 私はこの文たちを投稿した。それだけ。それだけだよ。 あなただって見たでしょ? ああ、信号が青になった。 もう行かなくちゃ。 他の人と一緒に私は歩き出す。誰かがこっちに向かって歩いてくる。 私は気づいた。なんとなく。なんとなく、そうだと思った。 それは私の目の前で目を開こうとした。 私は見たくなかった。もうあれを見たくなかった。見たくなかったの。 心を読む妖怪に恐怖するのは二つの理由がある。 一つ。人がいればそれもいるから。 二つ。読まれる中身じゃなくて、中身を閉ざしてる扉が開かれるのを恐れてる。扉が壊されるのを、怖がっている。 中に何を入れたのかなんて覚えてないよ。それは努めて忘れようとした結果でもあるんだろうけど。 でも、扉が開かれたら思い出してしまう。せっかく癒えた傷も血を吹き返す。それらが一気に溢れた時、私たちは耐えられない。 もう、見たくなかったの。 私は、目を閉じた。 車のブレーキ音が近づいてきた。 そしてそれは私の上を通り過ぎて行った。 目を閉じなきゃ。壁を作らなきゃ。 心の中を見たくない。見られたくない。 それでもその妖怪は油断させるように化けてくる。 まぶたの上は私たちをバカにするように笑っていた。 ねえ、これを見たあなた。 あなた、いい加減化けるのやめてよ。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加