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ゲストたちは用意された食事を頬張り始めた。見知った味は彼らの緊張をほぐしていく。口を開けない人形はそれを見つめていた。
名前を明かさなくともそれなりに人は繋がりを持つことができる。彼らは招待された同志として会話を楽しんだ。密室と化したパーティー会場で、彼らは目的を知らないまま宴を始めたのだ。人形はそれをじっと見つめた。
入室した時の息苦しさは鳴りを潜めていた。代わりにゲストたちは品定めされるような視線を一身に浴びることとなった。
それは特に壁から感じるものであった。ふとした瞬間に件の人形へと目を向けると、何故か人形も自分の方を向いている。そんなありもしないこともゲストは感じるようになった。
しかし他のゲストを見ると、自分と同じように周りの様子を窺うような素振りを見せる人は何人もいた。何かがおかしいことを感じている人は自分だけではない。その事がパーティーの異様さを物語っていた。
居心地の悪いままゲストたちは視線を浴び続けるのである。
ゲストたちが一息吐いたところで、パーティーのホストはやっと声をあげた。しかしそれも口から出されたものではない。
部屋のどこかに仕掛けられたスピーカーからホストは彼らを労った。そして、その流れのままホストはパーティーの目的を明かしたのである。
『この中から私のパートナーを選びます』
たったそれだけのことだった。
このパーティーは自分と夫婦になる人を選ぶためのものだと、主催者ははっきりと言ったのだ。そんな身勝手なことのために自分達は呼び出され、こんな所で拘束されているのか。ゲストたちは憤怒した。
スピーカーからは沈黙しか吐き出されてこない。もうそれ以上言うことはないとばかりに、ホストは口を開きそうになかった。
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