6人が本棚に入れています
本棚に追加
序章 【鳴かぬなら 潰してしまえ 鳴けぬまで】
害虫は命ある限り、いくら無視しても人の血を吸い尽くそうとしてくる。
そして吸うだけ吸ったあとは平気で唾を吐いて、人を腫れ物にする。
それは人間もまた同じ……
「ウルァァァアアアッ!! ……がぁっ!?」
ここにもまた一匹、いや一人。とびっきり厄介な害虫がいる。
他に誰もいない放課後の教室で、喚き散らしながら迫ってくる金髪の女子。そいつの振りかざす拳がワタシに触れる前に、華奢なその体ごと容赦なく蹴り返してやる。
だけどまだ潰れない。もはや満身創痍のくせに、めげずに立ち上がっては、ワタシ目がけてしつこく殴りかかってこようとする。
……どうしてワタシを狙うの? そもそもワタシがアンタに何かしたの?
ワタシはただ、一人で教室に残って日直当番の仕事をこなしていただけなのに。とくに高校に入ってからは、なるべく大人しく、人畜無害に過ごしてきたつもりだったのに。
それなのに昔から、どいつもこいつも勝手にワタシを腫れ物扱いして。そのくせ、あとで酷い目に遭うと分かっていながらも、面白半分にいじってこようとする。
だから結局、害虫は潰してやるしかないんだ。振り払うだけじゃなく、二度とワタシの周りに集ってこれないように。
本当はワタシだって、こんなことしたくない。けど、これも平穏な青春を平過ごすため……そのためなら、たとえワタシがまた一人ぼっちになってしまっても構わない。
だって、ワタシは――
「ううっ……ハァッ、ハァッ……クソがぁぁあああっ!!」
「……これ以上、腫れ物に触らないでくれる?」
――そう、ワタシは生まれた頃から腫れ物なんだから。
最初のコメントを投稿しよう!