序章 【鳴かぬなら 潰してしまえ 鳴けぬまで】

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序章 【鳴かぬなら 潰してしまえ 鳴けぬまで】

 害虫は命ある限り、いくら無視しても人の血を吸い尽くそうとしてくる。  そして吸うだけ吸ったあとは平気で唾を吐いて、人を腫れ物にする。  それは人間もまた同じ…… 「ウルァァァアアアッ!! ……がぁっ!?」  ここにもまた一匹、いや一人。とびっきり厄介な害虫がいる。  他に誰もいない放課後の教室で、喚き散らしながら迫ってくる金髪の女子。そいつの振りかざす拳がワタシに触れる前に、華奢なその体ごと容赦なく蹴り返してやる。  だけどまだ潰れない。もはや満身創痍のくせに、めげずに立ち上がっては、ワタシ目がけてしつこく殴りかかってこようとする。  ……どうしてワタシを狙うの? そもそもワタシがアンタに何かしたの?  ワタシはただ、一人で教室に残って日直当番の仕事をこなしていただけなのに。とくに高校に入ってからは、なるべく大人しく、人畜無害に過ごしてきたつもりだったのに。  それなのに昔から、どいつもこいつも勝手にワタシを腫れ物扱いして。そのくせ、あとで酷い目に遭うと分かっていながらも、面白半分にいじってこようとする。  だから結局、害虫は潰してやるしかないんだ。振り払うだけじゃなく、二度とワタシの周りに(たか)ってこれないように。  本当はワタシだって、こんなことしたくない。けど、これも平穏な青春を平過ごすため……そのためなら、たとえワタシがまた一人ぼっちになってしまっても構わない。  だって、ワタシは―― 「ううっ……ハァッ、ハァッ……クソがぁぁあああっ!!」 「……これ以上、腫れ物に触らないでくれる?」  ――そう、ワタシは生まれた頃から腫れ物なんだから。
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