天下統一編・第六話 【散らす者と拾う者】

1/1
前へ
/18ページ
次へ

天下統一編・第六話 【散らす者と拾う者】

 バキィッ! ……ドサッ。 「フゥ……口だけであっけねぇ奴らだな。マコ、大丈夫か?」 「私は離れてたから大丈夫。それより、安土(あづち)さんの方……」  遠くでオレンジ頭(カツミ)と背後霊さん(マコ)、二人の女子の気遣い合う声がする。どうやらそっちは片付いたみたいだね。  気づけば学校の屋上は、ワタシとオレンジ頭の二人で蹴散らした野球部のヤンキー七人がそこら中に転がっていて。逆に元々昼休みを満喫していた他の生徒たちは逃げ出したのか、一人も残っていない。  それもこれも多分、ワタシのせい。ワタシみたいな腫れ物は、どこに行ってもこうなる運命なんだ。  もっともアンタたちが、その腫れ物を放っておいてくれればよかった話でもあるんだけどね。 「ぐっ……げぇっ!? ……がぁうっ!?」 「おいお前、もういいだろ!」  足元のヤンキーを蹴り続けていると、やがてオレンジ頭が、いかにもな正義感を言葉にしてぶつけてきた。  ワタシだって別に、好きでやってるわけじゃない。何なら今すぐにでもやめたい。  かといって、今ここで中途半端にやめるわけにもいかない。こういう奴らはお風呂場のカビと一緒で、しつこいんだから。 「ワタシのことは許さなくていい。でも弁当箱のことは、絶対に許さない」 「うっ……わ、分かったって! あんなモンいくらでも弁償してやるから!」 「?」 「だからもう、やめ……ごぉっ!?」  うだうだと口先だけの謝罪文句を並べるヤンキーに、さらなる追い打ち。ならぬ追い蹴り。  もはや自分でも止め時が分からない。あと何回蹴ればワタシの気が済むのか、相手が心の底から反省するのかさえも。  だから本当はワタシも……自分を止めてくれる誰かを欲していたのかもしれない。 「おいっ!!」 「――ッ!?」  『蹴り続ける』という名の振り子運動に、そろそろ気が抜けそうになってきたとき。ふいに背後から、オレンジ頭に羽交い締めで体を押さえつけられてしまった。  ギリギリ締め上げてくるこの腕力……しかもワタシの利き足にまで、しっかりと自分の足を絡めてきてるし。どうすればワタシを効率よく抑えられるか、完璧に見抜いてるんだ。  ……やっぱりこのオレンジ頭、強い。 「死体蹴りとか、趣味の悪いことはやめろよ! もう終わってんだろ!!」 「終わった……?」  オレンジ頭のその言葉を聞いて、ようやくワタシの体は抵抗することをやめた。  というか、もう面倒くさくなった。このままもがいてカツミの拘束に抗うのも、ちっぽけなヤンキー相手に時間を割くのも。  何より、終わって少しホッとしてる自分がいる。 「そこのお前も、ドMじゃねえならとっとと消えろ」 「ひっ!? うっ、うわあああぁぁぁっ!!」  釘を刺すオレンジ頭の一言。それが利いたのか、ワタシの足元でダンゴムシみたいに縮こまっていたヤンキーが一目散に逃げ出し、そこへ他の奴らも一斉に続いていった。  あの逃げっぷりを見るに、まだ蹴り損ねた気がするけど。とりあえず今日のところはカツミって人に免じて、勘弁してあげるしかないか。それよりも…… 「……離して」 「ああ、悪ィ」  ワタシの要望に応じて、ようやくそっと解放してくれたオレンジ頭。その際軽く謝られたことに、変なむず痒さを覚える。  さっきから何なんだろ、この人。ワタシの敵なの? 味方なの? 親でも教師でも、ましてや友達でもない赤の他人のくせに、どうしてそこまで首を突っ込んでこれるの?  まぁいいや、どうせクラスも違うんだし、もう二度と関わることもないだろうからね。  さて、ワタシもちゃっちゃとお弁当片付けて、教室に戻ろ―― 「あの……これ!」  ――と、ここでまた、ワタシを放っておいてくれない人がもう一人。  意外にも怯える様子なくワタシの元に駆け寄ってきたのは、背後霊さん。さすがに無視してやろうかと思ったけど……両手でおずおずと差し出してきたのは、ワタシのお弁当箱? 「一応拾っといたんだけど……」  そう言って、遠慮がちな笑みを浮かべる背後霊さんの手には、オムライスのケチャップがべっとりと付いている。ワタシやオレンジ頭に付いてるヤンキーの返り血とは大違いだ。  それにしてもこの背後霊さん、まさかワタシたちがヤンキー共を蹴散らしている間に、おかずを拾い集めてくれてたっていうの? だとしたら大人しそうな雰囲気に反して、肝が据わりすぎてる気がするんだけど。  何にせよ、こういう優しさっていうのは慣れなくて、ワタシはつい戸惑ってしまう。でも…… 「あり……がと」  おぼつかない口調で何とか感謝の言葉を捻り出し、お弁当箱を受け取ったワタシ。すると背後霊さんは、こんな無愛想なワタシに屈託のない笑顔を向けてくれた。  ただコミュ障ゆえ、その笑顔にこれ以上どう反応していいか分からなくて。ワタシは逃げるようにこの場をあとにしてしまう。  とっくに冷めてるはずのお弁当箱から、確かな人肌ほどの温もりを感じながら…… 「アイツ、ちゃんとお礼は言えるんだな」 「本当は優しい子なんじゃないかな? 多分」 「そうかぁ? ……わっかんねぇ奴」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加