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4.疑念
「そういう訳だ、雅也。これにサインしてくれ」
そう言って、村野一樹は再びビールを一気に流し込むと、息子の雅也に問題の紙を突き付けた。
雅也の方はというと、まったく違うことを考えていた。
(ヤバイな。親父、ボケ始めたのかな。やだな。この歳で介護のこと考えることになるなんて。とにかく今日はとっとと別れて親父を家に帰すのが得策だろうな)
「親父の言う事は分かった。けど、ちょっと考えさせてくれ」
「どうしてだ? 俺がウルトラマンだった経緯はさっき話しただろ? 誰か一人でも認めてくれれば、俺はオルソックで働けるんだよ。なぁ、頼む。サインしてくれよ」
お互いに空になったコップにビールを注ぎながら、雅也は強い口調で告げた。
「頼む相手間違ってないか? 俺がサインしても説得力ないだろ。サインもらうなら、そのウルトラマンジロウだっけ? そいつにしてもらえよ。俺も光線でも見せてくれたら、追加でサインしてやる。だから今日はもう帰ろうぜ」
一樹は、はっとした表情を浮かべると、証明書をマジマジと眺めて、腕を組むと、トントントンと右手の人差し指を三回上下させた。
「たしかにお前の言う通りだな。ジロウにサインもらうのが、一番確かだ」
会計はオレがしておくから、と雅也が告げると、一樹はのそのそと帰り支度をした。
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