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5.再会
「ただいま」
雅也と別れて、そのまま帰宅した村野一樹は、心ここにあらずといった風であった。
「どうしたの? 何かあった?」
声をかけたのは、妻の冴子である。一樹とは、サニーで働いている時に先輩後輩の関係であったが、一樹のどこか謎めいた雰囲気に魅かれ恋愛、結婚し、3年目に雅也を授かった。
常に新製品の開発に追われていた一樹を、影ながら支えてきたが、この日の一樹は、これまでになく深刻な表情をしていたのが気になった。
「いや、別に何もないよ。ごめん、今日は疲れたから、先に休ませてもらうよ」
妻の不安そうな視線を背中に感じつつ、寝室に向かったのだが、ふと思い立って書斎に立ち寄った。古びたスチール製の机の引き出しを開け、何やらごそごそとし始めた。
-あった。
それは、どう見ても一升瓶の王冠にしか見えないものであった。その王冠らしきものには、辛うじて誰かのサインのようなものが掠れて残っていた。その王冠らしきものこそ、ウルトラマンジロウに変身する時に必要なバッジであった。もちろん、一樹以外にとっては、やはり一升瓶の王冠でしかないのだが。
バッジを手に握りしめ、ベッドにもぐりこむと、一樹はひたすらに念じた。
どれくらい時間が経っただろうか。知らないうちに眠りに落ちていたようだ。
「…おい。おい!」
誰かが自分を呼んでいる声で、ふと目を開けると、懐かしい姿が目の前にあった。
それは、かつてそれこそ「一心同体」であったウルトラマンジロウであった。
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