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6.提案
実に30年ぶりの再会であった。皺も白髪も増えた一樹に対して、ジロウは当時のままの姿でそこにいた。
「君は変わらないな。俺なんてご覧のとおり、もう老人だよ」
「見た目が変わらないだけで、歳は取ってるさ。今年で11015歳だぜ。最近じゃ老眼も進むわ、足腰も痛みが出てきてよ。自慢のストリウム光線も、今じゃ切れの悪い小便みたいでやんの、ワハハ。…で、急にどうした。何か用かよ? 相変わらず地球には3分しか居られないんだけど?」
まるで中学校の同窓会のような挨拶であったが、一樹は黒革の鞄から、例の証明書をジロウの前に差し出した。
「何も聞かずにこれにサインしてくれ」
「何だこれ?」
「警備会社に再就職するのに必要なんだ」
ジロウは、老眼らしく差し出された紙を少し遠目に眺めると、いきなりビリビリと破いた。
「何するんだよ、ジロウ!」
「それはこっちの台詞だ、バカヤロー」
ぽかんと間抜け面を晒す一樹に、ジロウは少し肩を落とし、諭すように話しかけた。
「三十年ぶりに会って何を言うかと思ったら、かつて俺だった事を照明しろだと? ふん、ばかばかしい。
確かにあの頃の俺は、地球人のためにと使命感に燃えていた。若かったよ。よく考えもしないまま、お前の呼び出しに応えて、契約も交わした。だが、結局怪獣は現れることもなく、ザ・ウルトラマンに引継ぎだけして、お前との契約も終わった。歴代のウルトラマンで怪獣と一度も戦わなかったのは、俺だけなんだぜ。おかげで、M78星雲ではバカにされまくったよ。それから先は、ただひたすら他のウルトラマンの活動記録を記すのが仕事になった。惨めだろ? そんな俺が、この書類にサインしてどうなる? え? あー、酒あるか?」
一樹は、ベッドルームの戸棚を開けると、ウイスキーの封を切り、グラスに注いでついっとジロウに差し出した。自分の分も作り、無言でジロウのグラスに合わせる。チン、というクリスタルの響く音が、やけに大きく聴こえた。注がれたウイスキーを一息に呷ると、ぶぅっと一息ついて、ジロウは言葉を継いだ。
「お前も似たようなもんじゃないのか、一樹。仕事が嫌になって、こんなこと思い付いたんじゃねぇのかよ?」
グラスに口をつけたまま、一樹はじっとジロウを見つめた。
「お前の言う通りだよ、ジロウ。窓際族にはもううんざりさ。かつてバリバリ開発していたあの頃の充実感は、もう味わえそうもない。そうだ、ジロウ。この際、もう一度契約を交わして、お互い一花咲かせないか?」
「また怪獣が現れなかったら?」
「その時は犯罪者をストリウム光線で抹殺しまくるとか、墜落しそうな飛行機を救ったりとか、まぁ、何かしら人助けになる仕事をしようぜ」
「…そうだな。うん。俺もこのままくすぶってるのは御免だ。やるか!」
「やろう!」
一樹はWordを立ち上げ、簡易契約書を作成すると、プリントアウトし、互いのサインを書き込んだ。
その時、突然Jアラーートが鳴り響いた。
「未確認巨大生物、東京湾に出現」
キターッ!!
一樹とジロウは、同時に歓喜の雄たけびをあげた。
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