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7.悲哀
村野雅也は、総理官邸に設けられた、特別対策室にいた。若くして、超エリート街道まっしぐらの彼には、現場指揮が任されていた。
未確認巨大生命体は、「怪獣」と命名され、東京湾をゆっくり北上しており、上陸も時間の問題だった。
雅也は速やかに陸海空自衛隊の指揮権を掌握すると、一斉攻撃を命じたのだった。
その頃、一樹は自室でいろんなポーズをとっては、首を傾げていた。何せ、30年ぶり、しかも当時一度も変身したことがなかったため、変身ポーズを忘れてしまっていた。
「おい一樹、早くしろよ」
ウルトラマンジロウが目の前でイライラしながら歩き回っている。変身、つまり一樹とジロウが一体化するためには、変身ポーズがキマることが重要なファクターであった。
「ちょっと待てって。あれ? どうやったっけ…。こうか?」
何だか、野球で監督が出すサインのような仕草をして、バッジを高くかざすが、何も起きない。
「おいおい、しっかりしてくれよ。怪獣が上陸しちまうぞ」
「ジロウ、お前覚えてないのか?」
「30年前だぞ? 俺だって覚えてねぇよ。メモとか残してないのかよ?」
「すまん、ないんだ」
二人して、ああでもない、こうでもないと様々なポーズを撮り続けるのであった。
その頃、雅也の指示による自衛隊の一斉攻撃により、あっさりと倒され、東京湾にその巨体を横たえていた。
その時である。「ジュワッ」という誰のものともつかない声が聞こえたかと思うと、ウルトラマンっぽい銀色の巨人が、怪獣の側に光を纏って現れた。
それは、ようやく変身出来たウルトラマンジロウであった。だが、倒すべき怪獣はすでに目の前に横たわっており、どうしていいか分からず立ち尽くし、キョロキョロしていた。
一方で特別対策室の方では、怪獣の死体処理をどうするかということに、話題はシフトしていた。モニターには怪獣の脇に立っている、銀色の巨人が映し出されていた。
雅也は、ちらとモニターに目を映したが、思わず釘付けになった。
その銀色の巨人は腕組みをしながら、右手の人差し指を、トントントンと三回上下させたのだった。
そして、先ほどまで眩いばかりに全身を纏っていた光は影を潜め、代わりに何とも言えない悲哀を感じさせずにはいられなかった。
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