13人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
都内有数の歓楽街である能楽町の中心地。
民宿やラブホテルが建ち並ぶ古い雑居ビルの二階、玲子が夜な夜な働いている風俗店がある。
オフィスから電車で約20分ほどで移動は可能だが、着いて早々肉体労働というのも気が気でない。
何より、フルタイムで働いたあとなのだ。お茶の一杯でも飲んでゆっくりする時間があってもいいだろう。
彼女はこの日も19時半〜24時まで出勤の予定。
ただいま時刻にして19時前、今は始業まで一息つける時間なのだ。
玲子はこの自由時間を使って電話で話している。
何やら深刻な話のようだ。
よほど大声でなければ、隣の部屋の声は届かない作りとなっているが防音は完璧ではない。
しかし、時折耳にする隣のキャストの声が気にならなければどうという事はない。
「えぇ・・・そうなんですよ。彼女ったら昔のことネチネチ今になって文句言ってきて。何度か謝罪したんですけどね。それが気に食わないのか、社内でも・・・」
"そこから嫌がらせが始まったということですか?"
「そうなんですよ。"あなたにはこのレベルしか仕事任せられない"とか言われて。彼女、休憩時間の後にお茶を入れてくれるんですがね。私の分だけなかったり。最近では上司が一言言ってくれたんですが、それでも"なんであいつから文句言われなきゃいけないんだ!"って。それに、打ち合わせで外出してもいつも除け者にされて・・・」
"それで、仕返しにあの写真を撮られたと?"
「そう捉えられても、仕方ないですよね。でもあれはホントに偶然で・・・」
プルルルル・・・・
玲子の自由時間の終わりを告げるべく、個室のインターホンが鳴る。
「あっすいません、また掛け直します。わざわざ時間作って頂いてありがとうございました。」
"いえ、お忙しいのにわざわざすいません。こちらこそ、またお話し伺わせてください。では。"
プツッ
「ア"ーーー!今いいとこだったのに!もう。」
ガチャッ
「はい、お待たせしました。いつでも大丈夫ですよ。」
インターホンを切ると同時にタバコを一本咥える。
ふと小窓の外に目をやると、まだまだ雨模様が続いている。
フーッ・・・
例え外の雨が明けても、暗く濁った彼女の心は晴れることはしばらくないだろう。
視界をタバコの白い煙が覆う。
これまでの自身の過去の事か、直面したくないものを隠すかのように。
「いい気味よ。これであの女も終わりね。あとは勝手に壊れるのを待つだけ・・・アハハハハ・・・!」
抑えきれなかったのか、玲子は感情が溢れ出た。
不敵に笑うその姿が、ピンク色の間接照明も相まってか、より不気味に鏡に映し出される。
見る人が見たら、その姿はまるで悪魔のように・・・
最初のコメントを投稿しよう!