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「そっか・・・そりゃそうだよね。いよいよか。あぁ、なんか緊張してきたな〜。」
「ちょっと、義巳さんったら!生むのは私よ。義巳さんが緊張してどうするのよ。」
「いや、そうだけどさ。ハハハハハ・・・」
何気ないこの会話がいつまでも続けばいいのにと里香子は思った。
そして将来この二人の間に、これから生まれる子供がやってくる。二人とってこれほどにない幸せを感じていた。
「それにしても一度倒れた時は心配したよ。何事もなくて本当に良かった。
君にも、それにこの子にも・・・」
義巳の片方の掌が里香子のお腹を優しく包む。
掌を通じ、彼はこれから出会う新しい命の鼓動を感じていた。
二週間ほど前、里香子はこの病院に運ばれた。
ちょっとしたというには大き過ぎるトラブルに遭遇したのだ。
もうすぐ母親になろうという彼女の障害になりかねなかった出来事だった。
幸い命に別状はなかったが、お腹の子供の事も考慮してそのまま入院を続けていたのだ。
その間、毎朝仕事の前に様子を見に来る義巳の姿があった。
着替えを届け、妻の体を拭いて。
休みの日には院内の散歩に付き添い、その姿を見た人間からはまさに『理想の夫』と言われるほどだった。
それに私だけでなく、日頃から同居する両親の世話まで手伝ってくれている。
そのため彼と私の両親との関係も良好だ。
こんな夫がいるだけで私は幸せだ。更にその夫との間にできた子供ももうすぐ生まれる。
私は今、人生の絶頂期にいると言えよう。
しかし、私はこんなに幸せになっていいのだろうか。
だって私はこの町で生まれた『ヘビっ娘』なのだから・・・
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