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上京
〜17年前 都内〜
『ヘビっ娘』
私が小学生の頃の出来事から付けられ、大人になってまで付けられたあだ名だ。
昔から爬虫類マニアだった訳でも、それに近い身体的特徴があった訳でもない。
些細な出来事で広がり、それが大人になっても続くのだ。
田舎社会というのは恐ろしいと感じる。
「おい!ヘビっ娘だぞ!」
「うるさいわね!ヘビっ娘じゃないわよ!」
「逃げろ!丸呑みにされるぞー!ハハハ・・・」
そんな時間が続けば嫌でたまらなくなるのは当然だ。
里香子は大学進学を機に逃げる様に上京した。
上京したはいいものの頼る者もいなく孤独だったが、あの町にいるよりは遥かにマシに感じていた。
"ここで新しい自分に生まれ変わる・・・
『ヘビっ娘』というなら脱皮して、ヘビを卒業してやろうじゃないの。"
里香子は過去の忌まわしき記憶を胸に閉じ込め、新たな出会いに期待を寄せていた。
進学して間もなく。
新入生向けの半期だけ、春先から夏休み期間に入るまでの短期ゼミというものがある。
メンバーの振り分けは至って簡単。学籍番号によって20名ほどが一まとめに区切られている。
ただ、顔見知り同士が組み合わさる場合もあれば、そういう訳でもない。
サークルに入る目的の人間は新歓コンパなどで出会った人間と繋がれるが、その目的がない人はそのゼミで最初の人間関係を作る必要があったのだ。
取り分け、コミュニケーション能力の高い人間は、とにかく周囲に声をかけまくり、緊張感を解いていく。
こうして人間関係を構築するきっかけが出来ていく。
里香子は自身をどちらかと言えば真逆な人間であった。
幼い頃はそんなことは無かったが、昔から周囲にからかわれ、やっと出来た友達も離れていく。
そんな事が続けば、他人と深く関わろうと思わなくなるのは明白だ。
しかしここで変わらなければ、結局あの町を出た意味もない・・・
多少の無理をする覚悟をしていた。
彼女の心配をよそに、30人ほど収容するのがやっとの教室内で、片っ端から声をかけ、会話を弾ませている女性がいた。
ショートヘアのよく似合うとても明るく社交的な人。
とりわけ美人という訳ではないが、ニコッと笑った時の笑顔が特徴的な女性だ。
"あぁ、あれ見たら私にはやっぱり無理かな・・・
閉鎖的な環境で生まれ育った里香子にとって、いきなり彼女の様な行動に出るのは少し戸惑いがあった。
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