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今度は山本は同じくスマホとにらめっこしていた里香子の顔を覗き込む。
何かに集中しており、話もそこそこのようだ。
「・・・」
パーン!!!
!!!!!
山本は催眠術師が無理矢理催眠を解こうとするかのように、目の前で手を叩き大きな破裂音を繰り出した。
瞬間、里香子の顔が大きく驚いたかのように変わる。
ようやく正気になったようだ。
「君らしくない。疲れてるなら、早く帰った方がいいんじゃないか?」
「ごめんなさい。ちょっと・・・気が散ってしまって。何せ、夫から灰村さんからコンタクトがあったって連絡が来たもので。」
里香子は問題の文面をその場の皆に見せる。
"灰村さんから。
『実は里香子さんから社内でパワハラを受けてまして・・・(涙)
写真の一件の前から酷い嫌がらせを受けているので、ご相談したいから今少しお電話いいですか?』
って連絡きたんだけどさ、敢えて電話してボロが出るまで聞いてみようと思うんだけど。
どうだろう?"
「うわぁ、これって完全に夫婦の仲壊そうとしてますよね・・・」
「彼女、本気だなこりゃ。で、同期よ、どう出る?」
「その同期ってやつはやめなさいよ。もちろん、腹は決まってるわ。」
"お疲れ様。
嘘であろうと、義巳さんが聞くに耐えられないなら無理に電話しなくてもいいわ。
でも本音言うと、何言ってくるのか気になるから聞いてほしい部分はあるのよ。
だから、無理ない範囲で。出来そうなら電話してみて。
巻き込んでごめんなさいね。"
ラインの文面から、里香子は徹底抗戦の構えを取ることにしたものの、玲子ほど使える物はなんでも使ってやろうという気にはなってない。
その思いが最後の一行に全て詰められている。
「それにしてもさ、昔おんなじ所に住んでいたのにこうも人って育ち方が違うのかね。俺は不思議でならないですよ。」
山本はシンプルすぎる疑問を投げかけた。
幼い頃からいかにして閉鎖的な社会で生き抜こうとしていたのか。
それが根本にあるのではないのか。
一方は外の世界へ興味を抱き、もう一方は中で地盤をより強く固めることを考える。
どちらにせよ、両者の生き方に間違いがないのは事実なのだ。
ザーッ・・・・
あいにく、窓の外は雨模様が続く。
梅雨が明けるのが先か、不安が晴れるのが先か。
疲れ切った眼差しで窓越しの暗くなった空を見つめる里香子がいた。
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