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反撃
〜7月1日〜
「それでは、折り込みに使う写真のデザインをデザイン課にお願いして作成し、そのデータを穴井さん他、普段から編集業務に携わってる人を中心に映像を作る。パターンを数作って各媒体で展開の方向でどうでしょうか?」
会議の進行役である大下がまとめに入る。
毎月里香子の所属する企画推進課は、月始に定例ミーティングが行われている。
毎月のように商品の展開方法、企画の方針などを固めていく大切な会議だ。
山本との写真騒ぎから約二週が経ち、部署の人間は心中穏やかではなかった。
たった一人玲子を残して。
会議中も時折、薄ら笑いを見せながら向かいに座る里香子の様子を伺っている。
あれから今日までずっと余裕の表情で過ごしている彼女の事だ。
恐らく何か仕掛けてくるならこのタイミングなのだろうか。
「特に問題ないだろう!作るだけなら30分もあれば出来るだろうしな。なぁ、穴井くん!」
「は、はい・・・頑張ります。」
会議を早く終わらせたいのか、竹山が話しを進めようとする。
「それでは、今月の方針は決定で。今回は特に編集担当の方に不可がかかると思います。他のメンバーは極力業務に負担がかからないよう注意しましょう。では、今月の会議はこれで終わりにします。お疲れ様でした。」
皆が手持ちのノートパソコンを畳み、戻る準備を進める。
そんな中で、数名の社員が大下に戻るのを呼び止められた。
山本、里香子、玲子、加えて竹山の四人である。
「おいおい、まだ何かやろうと言うのかね。今月の会議はこれで終わりでないのか。」
竹山は訳もわからず残される事になり、不満が隠しきれない様子だった。
「いえ、竹山部長。ここからが本番です。そんなに時間は取らせないので。早速ですが、まずはこちらをご覧ください。」
大下の合図で一枚のプロジェクターに映し出される。
見慣れた二人の男女がホテル街を歩いている一枚の写真。
山本と里香子の二人である。
映し出された写真を見て、大下が続ける。
「こちら、山本主任と錦主任代行の二人です。写真の提供者からは業務時間内での行為だと伺っております。改めてヒアリングも兼ねて、コンプライアンスに纏わる話をさせていただければと思います。」
「馬鹿馬鹿しい。こんなの付き合ってられない。当事者同士で、勝手に話し合えばいいじゃないか!やめなさい!」
「いえ。本来ならそうしたいのですが、提供者の言い分と当事者と言われる二人の言い分を改めて照らし合わせてみたいと思いまして。では、山本さん、錦さん、お手数ですがヒアリングさせていただきます。」
淡々と大下が話を進める様子に、山本と里香子の二人は冷静に応じる姿勢を見せた。
その中で竹山ただ一人、いや、もう一人。灰村玲子も狼狽え始めたのだ。その様子を大下は見逃さなかった。
「えーっと灰村さん、どうかされましたか?」
「・・・い、いえ・・・何でもないです。」
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