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今宵、私は蛇の子を生む。
今夜は満月。
球のようにキレイに丸い月を里香子はじっと見つめている。
"あぁ、もう明日か。私も母になるのね。
本当は嬉しいはずなのに、このどことなく湧いてくる不安はなんだろう・・・"
出産を間近に控えた彼女は、眠りたくとも寝れなかった。
それもそのはず、出産なんて人生で幾度となく経験できるものではない。
その不安が、分かりやすく顔ににじみ出ていた。
"こんな思いをするのなら、すぐ終わってしまえば楽なのにな。"
独りしかいない病室を、窓を通して月の光が照らす。
スモッグの影響だろうか、その光は少し赤みを帯びている。
妖しくも優しい光に包まれながら、里香子は暖かい掌でお腹を優しく包み込んだ。
"でも、どんな顔して出てくるのかしら。早くあなたの顔が見たいな・・・"
コンコン、
誰か来たようだ。看護士さんだろうか。
「里香子さん、遅くにごめん。入るよ。」
義巳さんだ。
面会が終わった時間にも関わらずやってきた。恐らく、特別な許可を得たのだろう。
扉越しに聞こえた夫の声を耳にして彼女は一気に安堵した。
ガラガラ・・・
「いやぁ、もう寝るところだったかな。起こしちゃったらホントに申し訳ない!」
「ううん、全然寝付けなかったから気にしないで。だって、予定通りなら明日なのよ?寝れなくもなるわよ。」
里香子は笑顔で答えた。
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