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「キャロライン?」
これは私が引き留めた方のキャロラインが発した言葉だ。
私はまじまじと彼女を見た。
「アーニャ?」
彼女は涙のこぼれそうな顔でうなずいた。
私がアーニャの体に入っている間は、アーニャが私の体に入っていたのだ。
私たちは抱き合った。
「ごめんね」
「ごめんなさい」
「許して」
「私も許して」
私たちはお互いを抱きしめて泣きながら謝った。
「見えてるっ………………」
「あ、ごめんなさいっ!」
私は今更ながらアーニャの体で上半身が肩掛けだけなのに気づいた。美しい胸が肩掛けの隙間からはだけてしまっている。申し訳ない程度にドレスが腰のあたりにかかっているだけだ。
私たちはくすくすと笑いながら、慌てて館の中に引き返した。
アーニャは私がドレスをきちんと着るのを助けてくれた。イーサンは階段の上から慌てて降りてきて、私たち二人を見た瞬間に固まった。
「悪い男ね。イーサン」
「本当だわ、最悪な夫」
「お仕置きしなきゃ」
「どんな?」
私たちは抱き合って、互いの顔を見つめた。
「今までのこと、本当にごめんなさい」
「私も謝るわ。本当にごめんなさい」
イーサンが叫んだ。
「なに?どうなっているんだ?」
アーニャの姿のままで私はつかつかとイーサンに歩み寄り、強烈な平手をイーサン伯爵にくらわした。
「あなた、気持ち悪いのよ。キャロラインはあなたなんか願い下げですって。離縁ですってよっ!爵位を持っていてもあなたは人間のクズだわ。お金目当てに好きでもない人と結婚するなんて、この薄情者っ!」
イーサンは雷に打たれたような表情でアーニャである私を見つめた。叱られた哀れな子犬のような表情で私を見ている。もはや私の目には、爵位など持っていてもみすぼらしい人間に見えた。
「それから、キャロラインの実家が伯爵家に支援していた分は全て停止させていただきますわ。ご承知おき下さいませね。あなたのことなんかキャロラインは眼中に無いのでございますわ。あなたみたいな夫は願い下げですってよ。だいたい結婚もしていない女をすぐに裸にしたがるなんて、ドレスの下をすぐにまさぐるなんて、大概にして頂きたいものでございますわ」
「ええ、あなたなんて眼中に無いわ。あなたのような夫は願い下げよ。離縁させて頂きますわ」
私の隣で伯爵家の妻である私(キャロライン)になりきったアーニャが、すました顔でイーサン伯爵に畳重ねるように告げた。
私たち二人は腕を組んで意気揚々と館の中に入った。
イーサンがとてもうろたえた様子で私たち二人に呼びかける声が遠くで聞こえていた。
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