わざとね ※

1/2
755人が本棚に入れています
本棚に追加
/215ページ

わざとね ※

 隣の部屋から裏切りの音が(せわ)しなくしている。  甘いけど獣のような声。女はわざと声を出している。私に聞こえるようにだ。男がやってきてから数分と立っていない。男は私の夫。私がここに潜んでいて、彼らのことを聞いているのを彼女は知っている。  やぁあんっ……  やんっ……んっ……ぁんっ……っあンっ!  私が好きではない男と女。  涙で前がよく見えない。頭に血がのぼり、震える手で必死に壁に手をつき、倒れないようにしているのが精一杯だ。息がしづらい。今、ここで座り込んでしまったら、二度と床から起き上がれないような気がした。    私の夫は爵位を持っている。彼女は私の親友、だと思っていた人。ずっと私を裏切っていた。そんなことってあるかしら?  私の親友のフリをし続けながら、ずっと私を裏切るということが本当にできるのかしら?さっきまでそう思っていた自分がバカだった。  夫は私には興味がない。夫と私は一緒の寝室で寝たことは一度もない。その相談を彼女にずっと私はしていた。夫はただただ、私の持っている土地が欲しかっただけ。夫が持っているのは爵位だけ。私が持っているのは土地とそこから毎年生み出される莫大な富。私と夫の結婚で、夫が欲しかったのはそれだけだ。私ではない。    彼女はわたしの悩みを慰めて、親身になっているフリをしながら、その裏で笑っていたのだろう。だって、こうやって自分が夫と楽しんでいるのだから。  彼女の名前はアーニャ、私の十三歳の時から親友だった人。夫はわたしが十五歳の時から私の恋人だった人。私は夫との清く正しい交際を経て、結婚をした。  
/215ページ

最初のコメントを投稿しよう!