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やがて一つしかないベッドに寝かされ、シャナは布団の中からぼんやりと隆弥の背を眺めた。
隆弥はリビングから3人掛けのソファを引っ張って来ると、ベッドの右サイドにぴたりと付けた。
よじ登るようにしてソファに掛け、長い足を伸ばす。それから、
「手、出して」
といってきた。
やっとその気になってくれたのだろうか?
期待を込めて右手を伸ばすと、シャナの白い掌に隆弥の節張った指がそっと触れ、指と指とが絡まった。
少しドキドキして身構えたが、
「じゃ、おやすみ」
隆弥はにこっと笑むと、くるりと視線を戻した。
「……は?」
もしかして、これだけなの?
しばし絶句した。
「それだけって、うそでしょ?」
「肌が触れていればいいんでしょ? だったらこれで足りるんじゃないの」
「えっ……」
どうだろう。言われてみると分からなかった。そんな提案をしたことも、されたこともなかったから。
「ま、物は試しだよ」
「……」
むくれたが、確かに一理ある。
でもまさか、こんな簡単な方法で叶うのだろうか?
シャナは今まで、眠るためにあらゆる努力を重ねてきた。
色々なぬいぐるみやペット(借り物)を抱いてみたし、よく効くと噂の睡眠薬や呼吸法は片っ端から試していった。
そのどれもが全く効かなかった。否、試せば試すほど余計に眠気が助長され、頭痛や吐き気が重くなる。
眠るためには、どうしたって年上の男の肌が必要だった。
それなのに今、丸二日寝ていないシャナがつかんだのはたったひとつの手だけ。不安になるなという方が無茶だ。
恨めしく目で訴えると、
「大丈夫だよ」
何でもないように隆弥が言う。
「どこから……」
どこからそんな自信が湧いて来るのか。
──ひと事だと思って。
怒りたかったが、わめいても隆弥は抱いてはくれまい。なら今は、このか細い藁をつかむしかない。
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