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暴かれた夜
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水の流れの合間に響く、陶器がわずかに触れ合う音。ジュージューと何かを焼き付けるような音につられて、シャナは重い瞼を上げた。
「……」
横を向いたが隆弥はいない。
音から察するに、キッチンで洗い物か何かをしているのだろう。
のそりと起き上がり、茶色い格子柄のカーテンを開いた。
外は群青に染まっていた。明け方が近いのだろうか?
でもそれにしては、ひんやりとした朝の冷たさを感じない。
確か街のどこかで、もうクリスマスソングを聞いたはずなのに。
じんわりと暖かい空気を不思議に思いつつ、ボーッとした足取りでリビングに出る。
「おお」
すかさず隆弥がキッチンから顔を出した。
錯覚だろうか、ピンク色にサボテン柄のエプロンを着ているように見える。
「やー、よく寝てたねえ」
シャナは吹き出しに『Give me water!』と書かれた腹のサボテンと、11時を差す時計とを見比べた。
「あの、今って……? 隆弥さん、仕事、とかは」
「ん、さっき帰ってきたとこ」
「そ、……えっ!?」
隆弥は確か、定時制高校の教師だと言っていた。定時制というものが実際何時から何時まで開校されるかは知らなかったが、この時間に家にいるのは不自然な気がした。
「早退、でもしたんですか」
「いや? 俺の勤務は午後2時から10時過ぎまでだから」
「じゅうじ過ぎ、まで……?」
──ということは、この11時は午後11時だということか?
であれば、つまりシャナは今日の午前3時過ぎから、午後11時まで眠り続けた計算になる。
合計、約20時間。信じられなかった。
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