渇いた夜に

3/6
前へ
/52ページ
次へ
ある秋の晩、父は指定した時刻になっても迎えに現れなかった。連絡も取れない。施設にもシャナにも、不安と緊張が走った。 突然、子供を残して親が蒸発する。そういうケースは稀にある。間近でそんな子を見てきたシャナは怯えて泣いた。 父を待つ二日目の夜、施設の窓から大きな満月がシャナを照らした。 それはまるで巨大な化け物の口。 シャナの不安ごと丸呑みにしようと襲いかかってくるような。 シャナはふいに、うまく息を吸うことができなくなった。それは次第に激しくなって、もがき苦しみ布団に倒れ込んだ。 結局のところ父は酔い潰れて携帯をなくし、自家用車の中で眠っていただけだった。 が、それ以来シャナは満月を見ると、たびたび過呼吸に襲われるようになった。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加