渇いた夜に

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「……はっ、……アッ、たす……はぁっ!」 怖い。 スマホで助けを呼ぼうにも、動転して指が上手く動かない。助けて、お父さん、でも父は遠くにいるのだ。救急車、救急車を、そう思うのに指が手が震えて、落としたスマホを拾うことさえままならない。 「きみ」 「ふっ、っは、あ……っ」 「焦らないで。口で吸おうとしないで、もっとゆっくり、落ち着いて息を吸い込んで」 誰だろうか、知らない男の声がした。すぐビニール袋を口元にあてがわれる。 「吸って!」 シャナは声に合わせて無我夢中で空気を吸った。 「吐いて!」 「はっ、はあっ、」 「上手だよ、また吸って」 「は、……」 はい、などと答えている余裕はなかった。 泣きながら息を吸い込む、そして吐き出すを繰り返す。 背中を誰かの手でさすられた。大きい、そして温かい掌だ。誰かに触れられている安心感に、だんだんと気持ちが落ち着いていく。 やがて、少し呼吸が楽になる瞬間があった。 「──あっ、……」 ここまでくれば、もう大丈夫。そう経験が知っている。 「きみ、──」 ホッとして、気が抜けたシャナの体がくたりと垂れ下がる。視界はしだいに暗く狭くなっていった。
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