眠らせて

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眠らせて

** 目覚めると、体が柔らかい物に包まれている感覚がした。 ああ、これはベッドだ。どうやって帰り着いたか分からないが、うちに帰ってこられたらしい。 ぼんやりと瞼を開けると、薄明かりの中にこちらを見つめる人物がいる。やわやわと毛布の感触を確かめると、それは自前のものではないことに気がついた。 ──誰の家? ──この人は誰? 「良かった、救急車呼ぼうかと思ったけど。これスポーツドリンク。飲めそう?」 両手で差し出されたペットボトルと、それを持つ大きな手を見比べる。 「……私は、どれくらい、寝てました……?」 「どれくらいって、そうだな。すぐそこで拾って、運んでじきだから、15分もないよ」 「……」 15分。たったの。ガッカリとした気持ちで、ようやく相手の顔を見た。 男性。若い男だ。けれど明らかにシャナよりは年上に見えた。顔立ちからすると25、6といったところだろうか。 やや癖はあるがすっきりとした黒髪に、懐の深い人柄を示すような重厚感のある瞳。 通った鼻筋と、品のいい唇。 逞しくありつつもほどほどの体格。 良い。実に良い。シャナの目がキラリと光った。 ペットボトルには目もくれず、その腕をガシリと掴む。男はハッと口を開けた。 「なっなに」 「……いて……」 「うん、うん? いやいるけど」 「抱いてください」 「なに、……抱く? ああそう、不安なんだね? 無理もないか」 ほら。といいながら、男は横たわるシャナの肩をぎこちない手つきでそっと抱いた。 「これでいい?」 「……」 そっと抱きしめ、そっと離れようとする男の胸へ、逃すかとばかりにシャナが飛び込む。そのまま強引に唇を奪おうと頑張った。 男なんて、キスさえしちゃえばこっちのもの。豊富なデータがそういっている。 触れようとするシャナの細顎は、しかし男にぐぐいっと押し戻された。 「ちょっ、やめっ……なさいっ……、なんなんだキミは!」  うわずった声を上げる男に、シャナも負けじと力を込める。 「いいから黙って押し倒されて」 「いや(おとこ)らし過ぎる……。じゃなくて!」
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