18人が本棚に入れています
本棚に追加
眠らせて
**
目覚めると、体が柔らかい物に包まれている感覚がした。
ああ、これはベッドだ。どうやって帰り着いたか分からないが、うちに帰ってこられたらしい。
ぼんやりと瞼を開けると、薄明かりの中にこちらを見つめる人物がいる。やわやわと毛布の感触を確かめると、それは自前のものではないことに気がついた。
──誰の家?
──この人は誰?
「良かった、救急車呼ぼうかと思ったけど。これスポーツドリンク。飲めそう?」
両手で差し出されたペットボトルと、それを持つ大きな手を見比べる。
「……私は、どれくらい、寝てました……?」
「どれくらいって、そうだな。すぐそこで拾って、運んでじきだから、15分もないよ」
「……」
15分。たったの。ガッカリとした気持ちで、ようやく相手の顔を見た。
男性。若い男だ。けれど明らかにシャナよりは年上に見えた。顔立ちからすると25、6といったところだろうか。
やや癖はあるがすっきりとした黒髪に、懐の深い人柄を示すような重厚感のある瞳。
通った鼻筋と、品のいい唇。
逞しくありつつもほどほどの体格。
良い。実に良い。シャナの目がキラリと光った。
ペットボトルには目もくれず、その腕をガシリと掴む。男はハッと口を開けた。
「なっなに」
「……いて……」
「うん、うん? いやいるけど」
「抱いてください」
「なに、……抱く? ああそう、不安なんだね? 無理もないか」
ほら。といいながら、男は横たわるシャナの肩をぎこちない手つきでそっと抱いた。
「これでいい?」
「……」
そっと抱きしめ、そっと離れようとする男の胸へ、逃すかとばかりにシャナが飛び込む。そのまま強引に唇を奪おうと頑張った。
男なんて、キスさえしちゃえばこっちのもの。豊富なデータがそういっている。
触れようとするシャナの細顎は、しかし男にぐぐいっと押し戻された。
「ちょっ、やめっ……なさいっ……、なんなんだキミは!」
うわずった声を上げる男に、シャナも負けじと力を込める。
「いいから黙って押し倒されて」
「いや漢らし過ぎる……。じゃなくて!」
最初のコメントを投稿しよう!