眠らせて

3/6
前へ
/52ページ
次へ
知らない男のアパートで、知らない匂いのソープをまとう。 シャワーを浴びると、水滴まみれになった鏡に細い裸体が映り込んだ。 濡れた茶髪はセミロング。 乾けばライトセピアに光る。 この色が一番、男たちに受けた。 シャナちゃんは綺麗だね。 大きな目だね、可愛いよ。 色白で、すべすべで、天使みたいだ。 あらゆる賛辞が送られた体。 それもこれも、欲を満たしたいがゆえのリップサービスだったろうけれど。 それでも褒められるのは嬉しかった。 自分は許されている。この世にいても良い存在なのだと証明されているようで。 残念なのは胸だけだ。 いつになったらAカップを超えられるのか。それがいつも恨めしい。 お風呂を上がると、大きすぎるスウェットに着替え、髪を乾かしてリビングに出た。なんとなく気まずく、忍者のような足取りになる。 隆弥はソファでテレビを観ながら、ほのかに湯気の立つマグカップを持っていた。中身は紅茶か、コーヒーかもしれなかった。 「おかえり。ぶかぶかだねぇ、あはは」 「……」 あらゆる賛辞を貰った体。しかも風呂上がりの色っぽさ。のはずなのに、またしても子供扱いだ。シャナは結局腹を立てた。 「あの……」 「喉乾いたでしょ。さっきのスポーツドリンク冷えてるよ」 冷蔵庫を指差しつつ、自身は熱そうなマグカップに口を付ける。 「隆弥さんって、不能かゲイなんですか?」 「フっ、……ッ!? ゲッッホ!! ぐあああ」 「えっあっ」 盛大に中身を吹いた隆弥が喉を押さえて咳き込んだ。火傷をしたかもしれない。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加