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「遅くなってごめんね。お昼の地震で、電車が遅れてたんだ」
「ううん。電車、大変だったね。地震の時、怪我とかしなかった?」
内気な私を気遣って、彼女は明るくお喋りに付き合ってくれた。私はにこにこと相槌を打ちながら、心の底では、ひどく焦っていた。
どうしよう……本当に憶えてない。
彼女の顔を何度も見返しながら、一人々々、記憶の中の同級生と照し合せてゆく。だけど、一致する人がいないのだ。ド忘れしてしまったらしい。
缶チューハイをぐいと飲み干し、こっそりと視線を逸らす。
周りを見回して、ふと気付いた。
よくよく見たらほかの人も、私の知らない人ではないか。
年月が経って、顔が大人びたわけじゃない。私の知っているクラスメイトとは、そもそも別人のように見えるのだ。
こんなことって、ありえない。私はだんだんと不安になってきた。
おそるおそる、近くであぐらをかいていた男性に訊ねる。
「ここって、三年二組の同窓会で合ってるよね?」
「もちろん、そうだけど」
彼は不思議そうに、私の顔を見返した。
背筋がさあっと寒くなる。私の脳裡に、ある言葉が思い浮んだ。
――パラレルワールド。
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