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それにしても、この狛犬 (仮) の発言、結構頭に響いてくる。実際にはキャンキャンと子犬の鳴き声で発せられ、暁生達には自動的に言語として変換されて聞こえるのだが、その鳴き声と言葉が被っているのだ。なんというか、声と同時にけたたましくベルが鳴り響いている感じ。しかも変換された声の方も高めなので、少々頭の痛くなってくる。
「あのー······でも、キミって······」
春依が、ふと声を掛けた。その後ろ、狛犬 (仮) の圧に驚いたのか何か、透雨がちょっと隠れている。
「もしかすると······使い魔なんじゃない?」
すると、狛犬 (仮) が心持ち身体を上向け──恐らく胸を張ったのだろう──答えた。
『いかにも。我は永らくひとつの家に仕える由緒正しき犬なのだ。〝力〟を持ち、主と御家族をお護りしている』クゥン
「ほぅ······」
春依の取った手帖は、狛犬 (仮) が宿っているものということなのだろう。多分。しかし、そうなると······
「で······なんでその由緒正しき霊験あらたかな狛犬が主から離れてるんだよ」
『由緒正しき霊験あらたか高貴なる格式高い狛犬様である!』キャンキャン!
やかましい。
狛犬 (仮) は、そっとまなこを伏せた。
『······それが分からぬのだ。前の晩、いつものように主をお護り通した我は、ひとときの眠りについたのだ。しかし今、目を開けてみればこんな所にいるではないか······!』キャンキャン
こんな所とは余計だが······話を整理すると。
この狛犬 (仮) がいた手帖は、氏神のもとに集められた品々のひとつである。不要、または使えなくなったため置き去るという······
「ああ。──つまり、捨てられた、ってことか」
「ちょっ! 暁生、」
思ったままを言ってしまった暁生である。すかさず飛んできた春依の睨みは空しく、直ぐに狛犬 (仮) が吠えてきた。
『馬鹿な事を! 我は捨てられてはおらぬ! 失敬な······! このような愛くるしい姿を捨てる者など今世に存在せぬ!』キャンキャンキャン!
これは本当に狛犬なのだろうか。
だがそこで、急にハッと身を震わせたソイツは、
『そういえば······ご主人は近頃何かに悩まされていたご様子······。まさか。我に何も言わず······!?』キャゥン
先程までの絶対的な自信は何処へいったんだよ······と呆れながら、春依と透雨と顔を見合わせる。どうする、これ。
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