三 狛犬の話───かくも災難なひととき

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「主人がいるならうちで引き取る訳にもいかないしな······。一時お預かりみたいになるけど······」 「つーか、その前に、コイツ悪いもんは引き連れてないんだな? 本当に悪いもんに属する側じゃねーんだな?」 「あ、それは間違いないと思うよ」  透雨が言った。 「手帖の方から僅かに感じる力も、悪い気配じゃないし」  そう言うならそうなのだろう。 「そんで······その主人が現れなかったら、どーすんだよ······?」  悲しげに身を丸めている狛犬 (仮) を見る。二人も目を向け、 「「 ······うちのコ?」」 「嫌だぞおい」  そもそも、使い魔というものは主と特別な契約を交わしている筈なので、おいそれと第三者が引き取れるものではない。  いくら手帖が主の元を離れたといっても、それとはまた別の問題である。  狛犬 (仮) の話を聞く限り、まだ主との契約の繋がりは切れていない様だし。多分。  加えて、暁生の個人的な感情を持ち出すなら、この狛犬 (仮) がうちに居るのはなんか嫌なのである。 「で、でも、このまま外に出せないよ······?」  透雨が、フルフルと全身を震わせている狛犬 (仮) を心配そうに見下ろす。  駆けて来る足音が、戸の向こうで響いたのはその時だった。  トントントン! と焦った調子で店の戸は叩かれ、 「──すみません! お店の方はいらっしゃいますか!?」  若い男の声だった。春依が急いで戸を開ける。 「すみません、こちらに手帖とコマ······あっ!」  彼は、縮こまる狛犬(ポメラニアン)に目を()めた。  ぱぁっと明るい顔で両腕を広げる。 「コマ~~っ」  大粒の涙を(きら)めかせて、狛犬 (仮) の姿が翻った。 『ごっ······、ご主人~~っ!!』キャウ~~ン  ひし······! と熱い抱擁(ほうよう)が生まれた。 「ごめんよ······! ひとりにさせて!」 『ご主人~~っ』クゥ~ン  春依が「感動の再会かな?」  暁生が「どこら辺が感動だ?」
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