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「申し遅れました······。僕、御門と言います。高校一年生です」
店内の小上がりスペースで正座した彼は、ぺこりと頭を下げた。黒の短髪で小ざっぱりとした印象の、しっかりした人柄に見える。
三人は、その向かいに立っていた。透雨は、彼がやって来た瞬間から春依の後ろで完全に隠れている。
例の狛犬はというと。ワフワフと、主人の膝にもの凄い勢いですり寄っている。優しく撫でて貰って、ご満悦そうだ。
「慌てて手帖を取りに戻ったんですけど、既にこちら······『しとせ屋』さんに渡されたと聞いて、急いで······」
「じゃあ、その狛犬はきみのところのコで間違いないんだね」
ほっとした春依の言葉に、御門少年が頷く。
「はい。うちは皆『コマ』と呼んでるんです。狛犬なので」
「たんじゅッ──」
皆まで言わせず、春依の手に暁生の口は塞がれた。
それでも······気になる事がある。
「······なんでソイツ、ポメラニアンなんだよ?」
ワフワフと腹を撫でられ喜んでいる使い魔を見る。
「あ、コマは元々は霊体なんですけど、今はこの姿が可愛いとお気に入りみたいで······」
「 ······ 」
自由自在に姿を変える狛犬って聞いたことないが······。今となっては、べつに訊かなくても良かった気がする。
「えっと······そもそもどうして手帖を捨てるようなことを? それ、大事なものなんだよね? ······あ、落としちゃったとか?」
「いえ······実は······確かに、捨てたんです」
春依の問いに彼は気まずそうにしながらもはっきりと答えた。『キャフン!?』とたちまち狛犬が跳ね起きる。
これは······話の展開によってはまた狛犬が煩くなりそうだ。
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