三 狛犬の話───かくも災難なひととき

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「申し遅れました······。僕、御門(みかど)と言います。高校一年生です」  店内の小上がりスペースで正座した彼は、ぺこりと頭を下げた。黒の短髪で小ざっぱりとした印象の、しっかりした人柄に見える。  三人は、その向かいに立っていた。透雨は、彼がやって来た瞬間から春依の後ろで完全に隠れている。  例の狛犬はというと。ワフワフと、主人の膝にもの凄い勢いですり寄っている。優しく撫でて貰って、ご満悦そうだ。 「慌てて手帖を取りに戻ったんですけど、既にこちら······『しとせ屋』さんに渡されたと聞いて、急いで······」 「じゃあ、その狛犬はきみのところのコで間違いないんだね」  ほっとした春依の言葉に、御門少年が頷く。 「はい。うちは(みんな)『コマ』と呼んでるんです。狛犬なので」 「たんじゅッ──」  皆まで言わせず、春依の手に暁生の口は塞がれた。  それでも······気になる事がある。 「······なんでソイツ、ポメラニアンなんだよ?」  ワフワフと腹を撫でられ喜んでいる使い魔を見る。 「あ、コマは元々は霊体なんですけど、今はこの姿が可愛いとお気に入りみたいで······」 「 ······ 」  自由自在に姿を変える狛犬って聞いたことないが······。今となっては、べつに訊かなくても良かった気がする。 「えっと······そもそもどうして手帖を捨てるようなことを? それ、大事なものなんだよね? ······あ、落としちゃったとか?」 「いえ······実は······確かに、捨てたんです」  春依の問いに彼は気まずそうにしながらもはっきりと答えた。『キャフン!?』とたちまち狛犬が跳ね起きる。  これは······話の展開によってはまた狛犬が煩くなりそうだ。
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